ブルーバードという喫茶店がミソラ商店街にある。こじんまりとした店だけど、雰囲気はそんなに悪くない店だと思う。LBXが店内に飾られていたりして、LBXプレイヤーの間ではちょっとは耳にする、という感じだろうか。 そんな場所が、オレの家だ。 「ただいまー」 「おかえりレン。ちゃんと手洗いしてね」 「わかってるって!」 この店のマスターはオレの母さん。女手ひとつで店を切り盛りしている。それほど繁盛しているというわけでもないが常連さんは結構いるみたいだし、母さんは満足してるみたいだ。 元々はLBXの開発者だったと言っていた母さんが何で喫茶店をやっているのかと、少し前に聞いてみたことがある。そしたらこう返ってきた。 「レンのお父さんがね、昔喫茶店やってたの。だから、かな?」 オレが生まれる前に死んでしまったという父さん。写真もほとんど残っていないらしくオレは顔をちゃんと知らないけれど、母さんからたまに話を聞く。母さんは本当に父さんのことが好きだったみたいで、父さんの話をするときはいつも笑顔だ。 父さん、という存在がオレには実感が全くわかないけどいつかわかるときがくるのだろうか。 「あ、そうだレン。お使いお願いできる?」 「えー…面倒…」 「明日拓也が来るみたいだから、ちょっと買ってきてほしいものあるんだけどなぁ」 「え!明日拓也さん来んの!?」 店を通り過ぎて自分の部屋に行こうか、というときに母さんの言葉に思わず振り返る。宇崎拓也さん、オレたち親子を何かと目にかけてくれる人だ。オレが小さい頃から色々と遊んでくれたりして、何も知らない父さんよりよっぽどオレの父さんみたいな人だ。TO社の社長ですげー偉い人なんだけど、父さんと母さんと仲が良かったらしく、こうやって今でも顔を出してくれる。滅多に会えない分、会えるときはめちゃくちゃ楽しみだし、色々と話したいこととかもいっぱいある。母さんに言えないこととか、拓也さんになら色々話せるし。 「じゃあこれ買い物メモだから、ちょっと行ってきてくれる?」 「わかった!行ってくるな」 母さんからメモを奪い取るようにしてオレは走り出した。自分の部屋にランドセルを投げるように置いて、すぐさま店から出ようとした。「お金忘れてるよレン!」と後ろから母さんの声が聞こえてハッとする。笑いながら母さんがオレにお金を渡してくれて、受け取ってすぐにオレは走り出した。 拓也さんがうちに来るのはいつ振りだろう。確かもう3か月くらいは来ていない気がする。3か月ぶりに拓也さんに会えるのか、と思ったら楽しみで楽しみでしょうがなかった。学校のこととか、色々拓也さんに話したくてうずうずする。 世界で一番誰が好きかって聞かれたら、今のオレは迷わず「拓也さん!」って答えるだろう。 |