「あ、姐さん!」

今日は郷田にも会わず平和だなぁなんて思っていたけれど、そんなことはなかったようだ。後ろから聞こえてきた高い声。姐さんという呼び方。考えられる人物はただ一人。

「リコ…姐さん呼びはやめてよ…町中じゃ恥ずかしいから」

「だって姐さんは姐さんでしょ?」

なんだろうこのデジャブ。先日も同じようなやりとりをしたような気がする、郷田と。舎弟だからってそこまで似る必要はないんじゃないかな。ハァ、とため息をついて私はリコの方へと向いた。リコだけかと思っていたけど、そこには鹿野と亀山も一緒に居て。いつもの三人組が揃っていた。鹿野と亀山は少し申し訳なさそうな表情をしている。そう思うならそこにいるリコをぜひとも止めてほしいんだけれど、割と切実に。こう考えている間にリコはいつの間にか私に抱きついていた。姐さん姐さん!と嬉しそうな表情で私を呼ぶ。郷田が大型犬ならリコは小型犬だなぁ…懐かれるのは悪い気はしない、けれど。二人とも少しは我慢を覚えてほしいものだ。

「なにあんたら、3人でどっか行くの?」

「あーハイ、郷田君がどっか行っちまったんで探してるんです」

「最近一人でふらっとどこかに行ってしまうでごわす」

郷田君見てないですかね?と鹿野が聞いてくる。申し訳ないが今日はアイツを見てない、と言うと鹿野はぼりぼりと頭をかいた。てか舎弟ほっといて何やってるのアイツは。まあ私も人の事はあまり言えたもんじゃなかったけれど(郷田達が勝手に後ろ付いて回ってた感じだったし)
ほら、リコ行くぞ。と鹿野がリコを引きはがそうとしている。姐さんも一緒にリーダー探しましょうよ!とリコが言う。名案だ、といった表情でこちらを見ているけれど、残念ながら私はこれからバイトがあるのだ。付き合ってられない。というか自分から用もないのに郷田に会いに行くのはちょっとなぁ、と思わなくもないわけで。

そうだ、せっかく3人が揃ってるんだから駄目元で少し言ってみようか。釘をさす、という意味はなさないかもしれないけれど、何もしないよりはマシかもしれない。多分。

「あのさぁ、3人とも。郷田にさ、少しは自重しろって言ってくれない?」

「自重?何をでごわす?」

「意味もなく私に会いに来るの」

毎回毎回追いかけっこになってちょっと、さぁ。
ため息交じりにそう呟くとリコと亀山は頭の上にはてなを浮かべたみたいだけど、鹿野はなんとなく察してくれたみたいだ。苦笑いしながら「多分、俺らが言っても聞かないと思いますよ?」と言われてしまった。うん、まあそんな気はしてたけど…。どうにかならないかなぁ、あの馬鹿。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、鹿野は私に質問をしてきた。

「てか弥生さん、郷田君の気持ち分かってないんスか?」

「郷田の気持ち?」

郷田の気持ちって何?アイツただ単に責任感とかそういうので私の後ろ追いかけてきてるだけじゃないの?
そう呟くと3人とも驚いた、というか何とも言えない表情で私を見ている。え?なんか私間違ってる?

「俺…郷田君が可愛そうになってきた…」

「でも郷田君の事だから自分で自覚してない可能性もあるでごわす…」

「…リーダーならありうるね…それ…」

鹿野、亀山、リコが3人で視線をあわせながらため息をついた。いや、そんな目の前で3人そろってため息つかれてもなんか扱いに困るんだけど…。どういう事が少し詳しく聞いてみようかと、声をかけようと思った瞬間に鹿野が動いた。

「時間取らせてスイマセンでした。俺ら郷田君探しに戻ります」

てっきり私に何か言われるかと思ったけれど、そんなことはなく。なんだか少し肩すかしをくらった気分だ。まあ、3人が私の前から居なくなってくれるというならその言葉に甘えさせてもらおう。そろそろ急がないとバイトに遅刻しちゃうかもしれないし。
今度会ったらクレープ食べに行きましょうね姐さん!と少しずつ遠くなるリコの声を聞きながら軽く手を振った。まあクレープ食べに行くくらいなら別にいいか。あの4人組と一緒に行くとなるとすごい量食べることになりそうだなぁ。亀山は言わずもがなって感じだけど、リコも私も甘いのは好きだし。郷田も結構食べる方だし。鹿野はあんまり甘いのは好きじゃなかったはずだけど、なんだかんだで付き合い良い奴だから一緒に来てくれるんだろうなぁ。

そこまで考えて、何だかんだで私はあいつらと居るのは嫌いじゃないんだという事に気がついてしまった。…やっぱりもうしばらくはあいつら4人組とは縁を切っても切れそうにないなぁ。嬉しいような悲しいような、と言った感じだ。そんなことを考えながら私はバイト先へと向かった。
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