中学生の頃は少し荒れていた、というかやんちゃな事をよくやっていた。親への反抗期やら学校での鬱憤やら、小さな事が色々つもりにつもって少しばかり道を踏み外してしまっていた。自分ではそういうつもりはあまりなかったのだけれど、周りに番長とかと呼ばれていたし…。
高校生になって、真っ当な生活をしようと自分なりに努力をしてきたつもりだ。親友と呼べる友達もできたし、少しずつではあるけれど周りのクラスメイト達との距離も縮まってきたんじゃないかって思っている。中学の頃は周囲には怖がられる事のほうが多かったし、友人というよりは舎弟という呼び方をした方がしっくりくるような付き合いしか出来ていなかったから、今の生活はすごく新鮮で楽しい。中学の頃の事はある程度忘れてこのまま生活出来たら…と思っていた、のだけれど…。

「弥生さん!」

「あーもう!!いい加減にしてよ郷田!!」

ミソラ二中を卒業して自分的にはきっぱりさっぱり縁を切ったと思っていた、のだけれど。彼…郷田はそうは思ってなかったようで。商店街や河川敷とか、とりあえずいろんなところで会う度にこうやって大きい声で呼びかけられては追いかけられるということがここ最近の日常になりつつある。
郷田とは中学時代のやんちゃしてた時に知り合った仲で…まあ今でも私の事を慕ってくれているというのは嬉しいけれども、いかんせん郷田に呼びとめられる、という事実は周りの目が気になってしょうがない。現ミソラ二中の番長である彼はこの町の不良のトップと言っても過言ではないから、そんな彼と話をするとなると自分の交友関係を疑われそうだ。…まあ実際綺麗な交友関係ではないから何とも言えないけれど…。
走って、走って、郷田を撒こうとひたすらに走る。今日最初に郷田に見つかった場所は商店街だった。私の現在地は河川敷であり、結構な距離を走ってきたものだとぼんやりと思う。少し息切れをして呼吸がしにくい。やっぱり現役のころよりは体力は落ちただろうか、なんて。ふぅ、と深呼吸をすると後ろからカッカッ、と軽快な音が聞こえてきた。こんなところまで追ってくるか、とため息しか出てこない。今日も郷田の粘り勝ちか…。私は諦めて河川敷にあるベンチへと座ることにした。ついでに自販機でジュースを買う。ガタンガタンと自販機から落ちてきたジュースを2本取り出したところで郷田の声が聞こえてきた。あまり息切れをしてないようで本当アイツは体力バカだ。私はほぼ全力疾走で来たというのに。

「ほんと、なんで私に構うかなぁ。もう私番長でもなんでもないんだよ?」

ほら、とさっき買ったジュースを郷田に投げる。どもッス、という声と一緒にプシュっと栓の開く音がした。ベンチに座って私もジュースを開ける。郷田はもう飲み終わったのか、空になった空き缶をゴミ箱へ投げて私の隣に陣取った。

「番長でもそうじゃなくても弥生さんは弥生さんだろ?用がなかったら話しかけちゃ駄目なんすか?」

「そーいうわけじゃないけどさぁ…ちょっとは遠慮とかしようよ…」

ミソラタウンはそんなに大きな町ではないから町中で知り合いにバッタリ、なんてことは多々あるわけで。今週だけで郷田に見つかっては追いかけっこをする、という一連の流れを3回くらいはやっている気がする。
怒っているわけではないけれど(どちらかというと呆れているんだが)そういう風にとらえられてしまったのか、なんだか郷田が少ししゅんとしている気がする。ちょっとへこんでる郷田はなんだか飼い主に叱られている大型犬のように見えて良心が痛む。そう思ってしまうからか私は郷田を突き放せないのだろう。なんだかんだで可愛い後輩に違いはないのだから。…こいつの図体は全くもって可愛くはないけれど。

「でも私に構うより他の子構ってあげたほうがいいんじゃないの?今の番長はアンタなんだからさ。」

「大丈夫ですよアイツら皆分かってくれてるんで。」

「もー…リコたちもグルなの…?」

もう頭が痛いってレベルじゃない。あいつら一回シメてやろうか、なんてうっかり思ってしまうくらいには私の悩みの種となっているのだ。それにこの後に続くであろう郷田のセリフも、だ。

「弥生さんを傷物にしちまった責任はちゃんと取らねぇと、男として筋が通ってねぇってもんだ!」

「アレは事故!事故みたいなもんなの!郷田のせいじゃないし怪我だってもう治ってるんだからアンタが気にする必要はないって何回言えば分かるの!」

昔、ちょっとした事で郷田をかばって怪我をしたことがあった。それからというもの、私が番長をやめてからもこうやって郷田は私に絡んできては責任を取るだの言って譲らない。正直、郷田の言い回しがすごく周りに勘違いをされそうなものだから周囲の友人達には絶対に聞かれたくない。だから私は逃げるのだ。
このやりとりも何回目だろうか。いい加減このこう着状態をなんとかしたいものだけど、私も絶対に譲る気はないし郷田も今までの経験から譲る気はなさそうだ。いつまでも郷田が私しか見てないこの状況はいつかは打破しなければならない。私のためにも、郷田のためにも。

「…絶対私はアンタの世話になんかなんないからね!いい加減諦めなよ郷田。」

「そりゃこっちのセリフだ弥生さん!俺は絶対諦めねぇからな!覚悟しとけ。」

ニヤリと不敵な笑みを浮かべる郷田。まだまだ郷田との関係は変わりそうもないなぁ…根気勝負と言ったところか。どうやら長期戦になりそうな感じもするけれど、お互いに譲れないのだからしょうがない。
この勝負、絶対に負けてなんてやらないんだから!

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