じりじりと刺す紫外線が痛い。もわっとした空気がただでさえ少ない体力をさらに奪っていくようだ。
そんな真夏の一日に、なぜインドア派の私が外に出ているのか。答えは簡単、買い物に出かけているからだ。この買い物が自分のためのものならまだ我慢もできるのだけれど、他人に強要された買い物かと思うと足も重くなるというものだ。

「なぁなまえ、ちょっと買い物行って来いよぉ」

冷房の利いた部屋で悠々と過ごしていた私をそう言って炎天下の外へ放り出したヤマネコ。部屋から閉め出されてから私のCCMに届いたメールは「ガリガリくん梨味買ってこい。あとハーゲンダッツな」という無情なものだった。大体ガリガリくん梨味なんてつい先日今期分の販売中止になったとかニュースで見たばかりな気がする。もう売り切れているんじゃないだろうか、なんて嫌な考えが頭をよぎった。もし買ってこれなかったらきっと色々と嫌みをぐちぐちと言われそうだ。はぁ、とため息をつくとポタリと汗が落ちる。それにしても今日はどうしてこんなに暑いんだろう。






「た…ただい、ま…」

コンビニを何軒か梯子して、ようやくガリガリくん梨味(最後の一本だった)を見つけたときにはだいぶ時間も経っていて、随分な距離を歩いてしまった。そこからまた部屋まで戻るという苦行をなんとか乗り切って辿り着いた部屋はまるで天国のようだ。冷房的な意味で。もうこのまま玄関に寝そべってしまいたい。そんな束の間の癒しもヤマネコによって終わりを迎えるのだが。

「遅ぇ」

不機嫌そうな声でヤマネコは私を蹴る。この炎天下の中歩き回った女にねぎらいの一つもなしか。ほんと、なんで私はこいつとつるんでるんだろう…。ヤマネコは私が買ってきたアイスを我が物顔で手に取る。ガリガリくんの封を開け、ガリッっとかじりついた。暑さで少しばかり溶け始めているそのアイスはとてもおいしそうで、思わずごくりと喉が鳴る。

「やらねぇぞ?」

そんな私の心境を知ってか、ニヤリと笑みを浮かべてヤマネコは私をあざ笑うかのように言葉を発する。「別に欲しいなんて言ってないし!」なんて、言い訳のようなことしか私には言えなかった。
ガリガリくんをかじりながらヤマネコは颯爽と自分のパソコンの前に戻ろうとする。そんな彼を見ながら私は今日何度目かになるため息をつく。ソーダ味でもいいから自分の分を買ってきたらよかっただろうか。また再びあの炎天下に戻ろうという気力は全くと言っていいほどないから、考えるだけ無駄だが。
ふと、アイスを入れてきたビニール袋を見るとまだ袋の中にアイスが一つ残っていることに気がついた。あれ?ヤマネコがハーゲンダッツを持っていくのを忘れたのだろうか。買ってこい、と言ってきたのだからてっきり後で自分で食べるように、と私に買いに行かせたのだとばかり思っていたのに。

「ヤマネコー、アイスいっこ忘れてないー?」

「あぁ?いいんだよ別に」

「でも早くしないと溶けちゃうよ」

「だったらお前が食ってもいいぜ」

オレっちはこいつで十分だ、なんて言いながらパソコンに向かって自分の世界に入っていってしまった。こうなったヤマネコはもう何を言っても聞こえないだろう。もしかして、最初からハーゲンダッツは私にくれるつもりだったのだろうか。そうだったら少し、嬉しいかもしれない。ほんのちょっとだけヤマネコのことを見直してみてもいいだろうか。
ありがとう、ときっと聞こえていないだろうけど小さな声で呟いてから、私は少し溶け始めたアイスを口に入れた。
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