「えっ?ジンくんって買い食いとかしたことないの?」

あぁ、と真顔でうなずかれてしまって私は返す言葉が見つからなかった。

学校から帰ろうかと思ったとき、校門付近にジンくんを見つけた。私はダメ元で一緒に帰ろうと誘ったところなぜかうっかりオッケーをもらってしまい、こうして一緒に帰宅をしているのだ。何でもないような会話を続けていたらコンビニの話になって、そして冒頭へと戻るわけだ。買い食いだけじゃなくコンビニを利用したことがないとジンくんが言うものだからびっくりだ。本当にジンくんはお坊ちゃまなんだなぁと感心する反面、ジンくんにコンビニ初体験をしてもらいたいななんて考え始める自分が居た。

「じゃあさ、今寄って行こうよそこのコンビニ」

「いいのか?」

「何事も経験してみるのが一番だよジンくん!ほら、行こう?」

善は急げ、とジンくんの片手を手に取り私は軽くダッシュをする。ジンくんは少し驚いたような声を出して私に引きずられる形となった。それでも手を振りはらったりしないジンくんは優しいなぁ、なんて思いながらコンビニへと向かう。
自動ドアが開くと同時に入店を知らせる音が聞こえた。人生初コンビニなジンくんはどういう反応をしてるかな、と顔を見てみたけれどいつもの表情のままだ。うーん、これくらいじゃ驚いたりしないのか、特に何も思うことがないのか。というか反応がないのが若干寂しい。

「なまえさん」

「どうしたのジンくん?」

「…こんな狭い空間にあまりにも物が有りすぎて、めまいがしそうだ」

訂正、反応がないんじゃなくてポーカーフェイスなだけでした。よくよく見たらいつもより大きく目を見開いている…ような気がする。棒立ちで動こうとしないジンくんを連れてとりあえずコンビニを一回りしてみようと思う。雑誌コーナーやお菓子コーナー、パンやお弁当のコーナーとかをジンくんと二人で見て回る。あ、新しいお菓子出てる。今度来た時買ってみようかな。

「そういえば目的って買い食いすることだったね。どうする?何か食べたいものとかある?」

「特には…物が多すぎて何を買えばいいのかが全然分からない」

本気でそう思っているのか真面目な顔で言うものだから思わず噴き出しそうになった。そこまで真剣に考えなくてもいいのに。でもそこがジンくんのいいところなのかな。

「なまえさんが決めてくれないか?」

「いいの?」

「あぁ、その方がきっといいと思う」

お願いするよ、とジンくんが私に頼んできた。うわぁこれはちょっとばかり責任重大なんじゃないだろうか。ジンくんの初めてを私に任せられるとはちょっと予想外だった。コンビニらしくて手軽に食べられるもの、がいいよねきっと。うーんなにがいいかな。…あ、そうだ。あれにしよう。きっとジンくんは食べたことないだろうし。
何も品物を持たずにレジに向かう私をジンくんは不思議そうに見ている。そんな視線を感じながら私は店員さんに肉まん二つください、と言う。ジンくんの分もお金を払って、肉まんを受け取る。

「はい、どうぞジンくん」

「あ、ありがとう…」

コンビニから出たところで私はジンくんに肉まんをひとつ手渡した。ジンくんは肉まんを持ったまま固まっている。いつになったら食べるかな、なんて思いながらじっとジンくんを見ていたら目があった。そしてジンくんは苦笑いをしてこう言う。

「…食べ方が分からない」

その一言に笑いが堪え切れなかった。あはは!と声を出して笑う。ジンくんは少し眉をひそめ、私を見る。初めてなんだからしょうがないだろう、なんて言い訳みたいなことを言うジンくんがすごく可愛いと思った。
普通にそのまま食べるんだよ、とお手本を見せる。手元にある肉まんはほのかな暖かさを保っている。一口、かじりつくとふわっと湯気のようなものを感じた。うん、やっぱり外で食べる肉まんは格別だなぁなんて思う。ジンくんも意を決したのか、一口、肉まんを口に含む。

「どう?おいしい?」

「あぁ、不思議だ。いつも食べているものよりおいしく感じる」

「これが買い食いの魅力ってやつだよジンくん」

そう言って笑うとジンくんもフッ、と笑った。そうだな、買い食いというのも悪くない。なんて肉まん片手に言ってもカッコつかないよジンくん。
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