「好きな子、いるんだって」 笑いながらそう呟いたなまえ。無理して明るく振る舞おうとしている姿は見ていて痛々しい。いつもそうだ、彼女は失恋をすると俺の元に来てはポツリポツリと話す。どれだけ相手を好きだったか、ソイツの事を吐き出すように。 そんななまえに何も言うことが出来ず、ただただ話を聞くことしか俺には出来ない。まだまだガキな俺にはなまえがどんな言葉が欲しいのか分からない。見当違いな事を言ってなまえを傷つけたくないから、口を閉ざす。 「私の事はいい友達だって、嫌われてはないから…いいんだ」 告白出来てすっきりしたしね。 そう言ってはいるもののなまえの声は震えている。強がってるのは分かってるんだ。 泣きたいなら泣けばいいのに。悔しいなら、悲しいなら、泣いてしまえばいい。 俺が、受け止めるから。 「…そうか。」 たった一言。それが言えない。自分が傷つくのが怖いからか、今なまえと築いているこの関係を壊したくないからか。どっちにしても俺は臆病者だ。 そう考えるとなまえはすげぇな。自分の想いを貫ける強さを持ってる。…俺には真似出来ねぇよ、ほんと。 「なまえみたいな良い女振るような男、お前には釣り合わねーよ」 「何それ、誉めたって何も出ないよ?」 またまた冗談言ってーとなまえが笑う。強がった笑い方じゃなくて、思わず笑ったような、そんな柔らかい笑顔で。 やっぱりお前にはそっちの方が似合うと思うぜ。なんて言えるはずもないけれど。 「んだよ、せっかく俺が慰めてやってんのに」 「分かってる、ありがと。いつもゴメンね森野」 なーんか森野には甘えちゃうんだよなぁ。 その一言が心に響く。なまえの中で俺は特別なのかもしれない、と思ってしまう。例えそれが恋愛感情じゃないとしても。…今は、それでも充分だ。 「お前の失恋記念に何か食いに行くか?せっかくだから奢ってやるよ」 「ちょ、傷口に塩塗り込まないでよ!めっちゃ高いもの奢らせてやる…」 こんな軽口を叩ける間柄ってのも、居心地がいいんだ。互いに自然体でいられるこの関係が。 いつか、俺がなまえに面と向かって好きだと言える日まで。それまでなまえの隣に俺以外の男が居ないことを願う。 |