(カズくんが高校生になってます)


人もまばらなバスの中、悠々と後ろの席を陣取りぼんやりと外を眺める。音楽プレーヤーから流れる今はやりの曲がイヤホンから聞こえてくる。
高校進学にあたって、オレはミソラタウンから少し離れた高校へ進学した。特に深い意味はない、というかオレはちょっと生まれた町から離れてみたかったのかもしれない。そんな適当な理由で進学した学校は良くも悪くも普通と言ったところで、通学にかかる時間が無為に感じることもある。

「あれ?青島くん?」

先ほど止まった停留所から乗ってきた一人の女生徒がオレを見てそう話しかけてきた。最初はオレに話しかけたものと気がつかなかったけれど、彼女がずっとオレを見てくるものだから視線を向ける。そこに居たのは中学時代の同級生だった

「みょうじ…?」

記憶から名前を掘り起こしてみょうじと呼ぶと、彼女は覚えててくれたんだとはにかむように笑った。彼女はオレよりはミソラタウンに近い高校に通っているようだ。あまり見慣れない制服に身を包んだみょうじは、なんだか中学の頃とは別人のように見える。

「隣、いい?」

「あぁ、別に構わないぜ」

わざわざオレの隣に来なくても他にも席は空いているのになぁ、とか思わなくもないけれど久々に会った同級生ということでちょっと嬉しく感じる。
今の高校生活はどうだ、とか中学校のころはあぁだったね、とか、あの子今どうしてるのかなーとか、たわいもない話をしながら少しずつミソラタウンへ近づいていく。中学の時、オレはみょうじとこんなに話をしたことがあっただろうか。同じクラスだったこともあるけれど、それほど仲が良かったわけでもなかったから。

「そういえば青島くんは今彼女とかいるの?」

「はっ!?な、なんでそんな話になるんだよ!」

「えーだって気になるじゃない。実際のところはどうなの?」

「いねーよ!」

「うそー意外…青島くんカッコイイからモテそうなのに」

驚愕、と言った表情でみょうじはオレを見る。というかそもそもオレは中学時代から彼女いたことねぇんだけどな…自分で言ってむなしくなるけど。何で女子って恋愛話好きなんだろうな、とぼんやりと思う。

「そういうお前はどうなんだよ。彼氏、いるのか?」

ちょっとした仕返しだ、と思ってみょうじにそう質問をする。彼女はその質問に対して少し頬を赤らめて、笑った。その表情だけでオレはなんとなく察する。あぁ、みょうじは今幸せなんだろうな、と。

「んだよお前いるのかよー」

「うん、高校入ってから…告白されてね。」

「はいはいごちそうさまごちそうさま。なんかオレむなしくなってきた…」

頭を抱えるような動作をしてちょっとへこんだような声を出すと、みょうじは「ごめんねそんなつもりじゃなかったんだけど…」と焦ったようだった。その行動に思わず吹き出してしまう。「冗談だよ冗談」と笑うとみょうじはもう!と言わんばかりに頬をふくらましていた。そこからまたどうでもいいようなくだらない会話をして、バスのアナウンスが「次はミソラタウン駅、次はミソラタウン駅」と流れる。もうここまで着いたのか。いつもなら長く感じる時間もあっという間に過ぎていった気がする。
あ、私次で降りなきゃ!とみょうじが言った。そうか、みょうじの家はこの近所だったっけか。

「じゃあね、青島くん。また、色々話そうね」

「おう、じゃあなみょうじ」

ひらひらと手を振ってみょうじがバスから降りて行った。その後ろ姿を見送りながら、なんだかむなしい気持ちになる。オレはうまくみょうじの前で笑えていただろうか。

「はは…だっせぇ…オレ…」

中学の頃からひそかに持っていた恋心。みょうじに告白する勇気もなくずっと心の奥底で眠っていた気持ち。高校へ進学して忘れたと思っていたけれど、今日みょうじに会って、やっぱりアイツのことが好きだったんだと痛感した。
そして、自分の気持ちを伝えることもなく今日、失恋したのだ。振られると分かっていても、告白をしたらよかった。後悔ばかりが自分を責める。相手は何も知らないで、自分の中でひっそりと終わった恋。顔を隠すように俯き、顔に手を当てる。

不完全燃焼で終わったこの想いを昇華できるまで…みょうじを好きでいても、いいですか?

心の中でそっと呟いた質問に、答える人は誰もいなかった。
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テーマ「人外ファンタジー」
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