「ね、少年。今度の日曜、デートしない?」


今度の日曜、1時に商店街の噴水前で待ち合わせね!なんて言って、俺が反論する前に勝手に帰って行った弥生さん。俺はまだ行くって言ってねーだろ!とか思ったけど、反論するにも俺は弥生さんの連絡先を知らないわけで(なんかいっつも聞こうと思ってもタイミング逃すんだよな…)
勝手に弥生さんが約束取り付けただけなんだから別に日曜に律儀に行く必要なんてない、と分かっていても。


(なんで俺ここ居るんだよ…)


ちらりと時計を見ると12時40分、と針をさしている。噴水の脇に腰かけながらがしがしと頭をかく。早く着きすぎた、と思いながらぼーっと噴水を眺める。俺が行かなくて弥生さんを長時間…待たせるっつーのもなんか、後味悪ぃし。そう、それだけだ。つか俺の返事もなく勝手に決めてデートでもなんでもねぇだろ。
なんかいつも、弥生さんのペースに乗せられている気がする。思えば初めて会ったときからそうだ。気がつくと弥生さんにからかわれたりなんだりで。くっそ、これが年の差ってやつかよ(2,3歳しか違わねぇっつーのに高校と中学ってそんなに違うのか)


「あれ、竜吾もう来てたんだ!早いねー。」


やっ、と片手をあげて弥生さんが俺のほうへ近づいてきた。まだ1時まで15分くらいあるねー、なんて笑っている。見慣れない弥生さんの私服姿に(そりゃ日曜なんだから制服着てる方がおかしいけどよ)なんか、変な感じがする。一瞬ドキッとしたとか、そんなのは絶対いきなり声掛けられてびっくりしただけだ。


「ちょっと早いけど、行こっか。」

「行くって、どこに?」

「まだ内緒!ほらこっちだよー。」


そう言って俺の手を取り弥生さんは歩きだした。俺はそれにつられる形で少しバランスを崩しながら弥生さんについていく羽目になった。歩けるから手放してくれ!と言ってみても別にいいじゃない、ね?と弥生さんは聞く耳を持ってくれない。力任せに振り払うことは出来る、だろう。けど弥生さんだって女なんだし、力加減間違って怪我とかさせるわけにはいかねぇし。あぁ、またこの人のペースに巻き込まれている。そう感じることしかできない。
そんなことを思いながら歩くこと10分。着いたよ、と弥生さんに言われた場所は、落ち着いた雰囲気のあるオープンカフェだった。ぱっと見た感じ客層は女かカップル、といった感じで、正直俺には居心地が悪い。俺たち、というか俺が確実に浮いている。そんな俺の心境などお構いなしに店員が俺たちを席に案内する。…まだ弥生さんと一緒のほうがこの空気に耐えられる、と思う。案内された席も端の方で助かったというのもあるが。弥生さんは周りの目を気にする風でもなくメニューを見てどれにしようかな、と笑っている。


「…なぁ。」

「ん?どしたの?あ、もしかして食べたいものなかったとか?」

「そーいうわけじゃねぇけどよ。…なんで、ここなんだ?」


そう弥生さんに尋ねながら、しかめっ面をしている自信があった。居心地が悪くてしょうがねぇ。正直できることなら今すぐ帰りてぇくらいだ。弥生さんはごめんねーと軽く笑いながら言う。あ、この人絶対心から思ってねぇな。てか楽しんでるだろ。はぁ、とため息をついて腹をくくる。ここまで来てしまったんだから何か頼んでさっさとこの店から出た方が早い気がしてきた。


「竜吾さ、実は甘いもの大好きでしょ?」

その一言に驚いて、ちょうど飲もうとしていた水が気管へと入り込んだ。ゲホッ、とせき込む。な、なんで弥生さんが知ってるんだ!?

「ほら、私よく差し入れでドーナツとか持っていくじゃん?その中で大体竜吾が手に取るやつってめちゃくちゃ甘いものなんだよねー。1回2回なら偶然かなーとか思ったけどさすがに何回も続くと、ね。」

「…変だ、とか思わねぇのか?」

「なんで?甘いものおいしいじゃん!私だって大好きだし気にすることないよ」


あ、ちなみに私のおすすめはこれね。と俺が見ているメニューである一品を指さす。ラズベリーとココナッツのタルト、と書かれたその写真はとてもうまそうだ。私これにしよっかなー、なんて今にも彼女は鼻歌でも歌いだしそうな様子だ。
…俺が甘いもの好きだとばれていたことに少し…いやかなりショックだが(俺のイメージとあわねぇのは分かってるんだよ自分でも)逆に弥生さんの前なら隠す必要もねぇんだな、と開き直ってしまおうか、なんて考える。この店はタルトを売りにしてるのかさまざまな種類のものがあって正直目移りする。どれにしようか悩んでいると弥生さんは笑いながら「何個でも頼んでいいよ、私のおごりだからね」と言った。


「いや、自分で出すし。」

「いやいやー誘ったの私だし。ほら、それにこれは竜吾の優勝おめでとうデートだからいいのいいの!」

「でもよ…」

「でもよ、じゃない!ここはおねーさんに任せなさい。」


ニコニコと笑う弥生さんの後ろから無言の圧力か、何か断ってはいけないような何かを感じた。背筋が凍るような感覚というか、なんというか。ここはおとなしく従った方がいい気がしてきた。…弥生さんってこーいう面もあるんだな…。頼んだタルトやケーキを前にしたらすっかりそのことを忘れちまったわけだけどよ。


「…うめぇ。」

「でしょ?このお店はほんとおいしくてね、一度竜吾を連れてきたかったんだー。一人じゃなかなか来れないかなーって思ってさ。」


私と一緒なら少しは入りやすいでしょ?という弥生さんの心遣いが、素直にうれしかった。なんだかんだで俺のこと思って今日誘ってくれたんだな、と。そう思ったら少し気恥ずかしい感じもしたけど、よ。


「弥生さん…あ…」

「ん?」

「ありが、と…よ…」

「ふふっ、どーいたしまして。」





ドルチェな一日





赤くなった顔を隠すように、目の前にあるタルトを再び食べ始める。いつもよりもめちゃくちゃ甘く感じたのはなんでだろう。
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