フットボールフロンティア、地区予選が始まった。

実際見に行くことは出来ていないけど(毎度毎度バイトや用事が入るとはタイミングが悪いとしか言いようがない)少年…竜吾や弟から話を聞くことができるから、雷門中が無事勝ちあがっている、ということは知っている。
あれから私と竜吾はたまに河川敷で会ってはくだらない話をするような関係になった。最初のうちは竜吾たち雷門サッカー部が河川敷で練習をすることも多かったから、少し離れたところから練習風景を眺めてみたり。練習が終わってからも一人練習している竜吾に色々差し入れしたり、と。前より心を開いてくれたのか、竜吾も私に声をかけてくれることが増えてきた(それでも互いに一人のときにしか話しかけてくれないけど)
野生中…御影専農、秋葉名戸、雷門中は次々と強豪校を打ち破ってついに決勝までたどり着いた、と竜吾は言っていた。決勝戦の相手はあの、帝国学園。雷門中にとっては因縁の相手といったところだろう。せめて決勝戦くらいは直接見に行こう。そう思っていたのに…


(なんで決勝戦の日に限ってシフト入れちゃうの店長ー…)


いらっしゃいませー、と営業スマイルを浮かべながらお客様の注文を受ける。私のバイト先はドーナツチェーン店だから、休日となるとかなりの人でにぎわう。現に人の波は切れることなくやってくる。休憩に抜けだしたりすることすら出来なさそうだ。
店長の鬼!悪魔!人でなしー!と内心叫びながら仕事をこなす。今日休みにしてください、と頼んだはずなのに遠慮なくシフトを入れるあたり、本当にひどい。ひどすぎる。人手不足だっていっつも言ってるんだからバイトの人増やせばいいのに。今度この店辞めてやろうかなんて、ちょっと考えてみたり。まあでも、なんだかんだで店長にはお世話になってるからきっと辞めないとは思うけど。


「あー…もう試合終わっちゃったなぁ…。」


夕方ちかく、もうすでに空も暗くなり始めたころ。ようやくバイトも終わって帰路につきながら私はそうつぶやく。見に行く、なんて竜吾と約束したわけではないけどやっぱり見に行きたかったなぁって思う。練習風景を見てるだけでもいいチームだと思った雷門中の試合を、一度でいいから見てみたいと思うのはわがままなんだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると、見慣れたサッカーコートが見えた。…河川敷のサッカーコートだ。無意識のうちにこの道を選んで歩いていたことにちょっと笑いがこみ上げてきた。竜吾と初めて会ったこの場所、いつのまにやら大好きな場所となった河川敷。私は立ち止まって景色を眺める。もう暗くなってきたからか、誰もサッカーはしていないようだけれど。


「弥生、さん…?」


ふと私の名前が呼ばれた。声の方に振り向くとそこにいたのはジャージ姿の竜吾。


「やぁ、竜吾。偶然だね。」


決勝お疲れ様、と声をかけると、おう、という嬉しそうな声が返ってきた。表情もどことなく嬉しそうだ。もしかして、と思ったけれどそれを顔に出さないようにして竜吾に問いかける。


「ね、決勝戦どうだった?あの帝国相手だったんでしょ?」

「俺たち、勝ったぜ!優勝だ!」


すごく嬉しそうに竜吾が言った。それを聞いて私もようやく実感が出てきた。…本当に、勝ったんだ…雷門中。


「すごい、優勝、したんだね…。おめでとう、竜吾!」


思わず竜吾の手を取ってぶんぶん振り回してしまった。竜吾はちょ、弥生さん落ち着けって!と私をなだめてくれる。我に返って、竜吾の手を放す。そしてゴメンとつぶやいた。ったく、ちょっとは落ちつけよなと竜吾に言われてしまった。でも、でも!雷門中の優勝なんて聞いたら落ち着いてなんてられない!私はまた竜吾におめでとう!と言葉をかける。竜吾は段々恥ずかしそうな顔になってきている。


「もうわかったから!ちょっとは落ちつけよ!」

「でも、」

「でも、じゃねぇ!」


全く、どっちが試合したんだかわかんねぇじゃねぇか。なんて竜吾はぶつぶつ言う。あ、ちょっと顔赤くなってる(相変わらずスキンシップ苦手だよなぁ竜吾って)
地区大会優勝、かぁ。本当、弱小とかって言われてたらしい雷門中サッカー部にしてみたらすごい快挙だろう。竜吾や、サッカー部の子たちが一生懸命頑張った結果がこうして記録に残る、というのはほとんど関係ない私としてもうれしくなる。
なにか、竜吾におめでとう以外で伝えられることはないだろうか。とちょっと考える。もっとお祝い、してあげたい。
ふと、ひとつのことをひらめいた。これなら、竜吾も喜んでくれる…かな?


「ね、竜吾。今度の週末、暇?」

「いきなりなんだよ。…たしか練習もねぇはずだから暇、だと思うけど。」


竜吾のその言葉を聞いて、思わず笑みがこぼれる。そうだ、この方法で優勝のお祝いをしてあげよう!
なんだかいたずらをしかけるような気分になって、ちょっと楽しくなってきた。




お誘いはアレグロに




「ね、少年。今度の日曜、デートしない?」
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