「…何だか大変なんだねぇ、雷門サッカー部も。」


河川敷の少年に話しかけた次の日。私はまた少年に話しかけている。少年が今、どんな状況にいるのか聞いてみたが(というか無理やり吐かせた、と言っても間違いじゃないかもしれないけど)、思ってたより色々大変そうだ。
その少年はやっぱり言うんじゃなかった、と言わんばかりの表情で、私が差し入れにと持ってきたドーナツを食べている。(あ、一番甘いやつ食べてる。もしかして少年甘党なのかな)


少年から聞いた話をまとめるとこうだ。
部員も少なくて、弱小な雷門サッカー部が帝国学園(サッカーが凄く強いところだと私でも知ってる)との練習試合で何とか勝って廃部を免れたそうだ。(帝国の棄権、らしいけど)
今度は尾刈斗中というとことの練習試合らしく、この試合に負けても廃部らしい。
帝国との練習試合で唯一、点を決めたごうえんじ?という子はサッカー部員ではなくて、少年は彼に頼らずに尾刈斗中に勝ちたい、んだろう(そんなことは言ってないけど、口調とかから考えるとなんとなくそう思えた)


「でもさ、少年は凄いと思うよ?」


少年の話を聞いて、私が思ったことを正直にこぼした。少年は俺のどこが凄いんだよ、と怒ったような口調で言葉を返す。短気は損気だよ、少年。


「だって普通はさ、そんなに凄い選手がいきなり出てきたらそいつに任せれば大丈夫だって思ったりするじゃない。自分が頑張らなくてもいいんだって。
でも少年は自分の力で勝ちたいって思ってる。そのために努力してる。それだけでも十分凄いよ。」

「けどよ…。」

「…負けたくないんだね?そのごうえんじくんとやらに。」


少し俯きながら少年は頷いた。自分にまだまだ実力が無いって思ってるから自信も持てないんだろう。


「負けず嫌いはさ、良いことだと私は思うよ。」

だって向上心があるってことでしょ?
笑いながらそう言うと、少年は少し驚いたような顔で私の方を見る。私はそんな少年を見て思わず笑みがこぼれた。
それから少しの間、沈黙が続いて。少年が私に問いかけてきた。


「なぁ、」

「ん?何だい?」

「なんでアンタ、俺なんかに構うんだ?」


少年に構う理由、か。まあ少年が不思議がるのも分かるけど(本当、ただの他人でしかないんだから)


「最初、河川敷でサッカーしてる少年を見てさ。…何となく、弟に似てるなぁって思ったの。」

「弟…?」

うん、弟。と私は言葉を返す。少しずつ暗くなり始めている空を見上げて、苦笑する。


「私の弟もさ、サッカーしてるんだけどね。ちょっとある事があって、サッカーが嫌になった、んだと思う。」


多分、少年と同い年くらいだと思うよ、うちの弟。と意味の無い話も交えながら私は独り言のように話をする。


「サッカーが大好きなはずなのに、嫌いなフリして。でもサッカーから離れられなくて、今もサッカーやってる。けど、全然楽しそうじゃないんだ。」


そんな姿が、少年にダブって見えたんだよ。私がそう話すと少年は何だか苦い顔をしていた。そんな顔、させたかった訳じゃないんだけどなぁ。


「弟のことは、私じゃ近過ぎて何も出来ないから。せめて少年には弟みたいになって欲しくなかったんだ。
…だって少年も、サッカー大好きでしょ?」


ただの自己満足でしかないのは分かってる。私が少年の力になれないかもしれないとは思っても、手を差し伸べたかったんだ。

ぐーっと背伸びをして、私は座っていたベンチから立ち上がる。あぁもうだいぶ夕日が沈んできている。そんなに時間が経ったとは思わなかったけど。
少年の方に振り向いて、今自分が出来る最高の笑顔を浮かべた。



「大丈夫、少年なら絶対強くなれるよ!素敵なサッカーがやれるって!」

「…なんでそんなこと、言えるんだよ。」

「えー、…女の勘?」


何だよそれ、と少年は笑う。その笑顔は年相応な感じの自然な笑顔で。やっぱりこんな素敵な顔も出来るんじゃない!と何だか嬉しくなった。




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頑張れ、少年。と少年の頭をポンと撫でた。少年はガキ扱いすんじゃねぇよ!と顔を少し赤くして声を荒げた。そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。
…私と話したことで少しでも、少年の気持ちが軽くなってくれてたらいいな、って思いつつ。私はまた笑った。
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