蹴り上げたボールは宙に舞い上がり、ゴールネットを揺らすことはなかった。
くそっ!と悪態をつき地面を蹴る。こんなシュートじゃあいつに、豪炎寺に勝てる訳がない。必殺技をあみ出せない自分に苛々が募る。


「そんなに怖い顔してどうしたんだい、少年?」


そんな時に話しかけてきた奴がいた。振り向いた先に居たのは1人の女。
そいつはニコニコした笑みを浮かべ、俺を見ている。


「別に…何でもねぇよ。」

ふん、と顔をそらして俺はさっき蹴り上げたボールを取りに行く。ボールを取って練習を再開する。何度蹴っても豪炎寺のようなシュートは出来なかった。


「ねぇ、少年。1人でサッカーして楽しい?」


そう問いかけてきた女はまだその場に立って俺を見ていた。さっきの笑顔とは違った表情で俺を見る。
俺は何も言わず、いや何も言えず女から目をそらした。今俺がしているサッカーが楽しいとはとても思えなかったが、それを見ず知らずの奴に言いたくないという気持ちがあった。
女は何も言わない俺を見てふっと笑った気がした(そいつの方を見ている訳ではないから俺の想像でしかないが)


「少年!」


人一倍大きな声でまた俺を呼ぶ女。今度はなんだ、と振り向くとペットボトルを投げられた。反射的にそれをキャッチする。
それ、差し入れ。笑いながら女はそう言った。ペットボトルを見るとスポーツ飲料のラベルが貼られていた。


「少年が何に悩んでるのかは知らないけどさ、話くらいなら聞くよ?見ず知らずの人間だからこそ言えることとかもあるんじゃないかな。」


なんてね、と軽く笑いながら話す女。それじゃ、私帰るよ。練習の邪魔してごめんね。と女は河川敷を去って行く。
何故か俺は女から目を離せず、しばらく後ろ姿を眺めていた。そして気がついたら声を上げていた。

「…今度、会ったら!」

俺の声に女が振り向く。


「話…聞けよ、な。」


勢いで言ってしまったとはいえ、段々恥ずかしくなってきて声も小さくなる。
それでも女には聞こえていたのか、満面の笑みを浮かべて「また、今度ね!」と俺に手を振っていた。




フェローチェな少年





貰ったペットボトルを飲み干して、俺はまた練習を再開する。苛ついていた筈の気分は大分良くなっていた。
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テーマ「人外ファンタジー」
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