ある雨の日の放課後。私は傘もささずに走っていた。
今日は午後から雨が降ると、朝のニュースで天気予報のお姉さんが言っていた。だから私はビニール傘を持って学校に来たというのに。


「私の傘、借りパクしてった奴出て来いこのやろう!」


ちょっと用事があって下校時間ギリギリに昇降口へついたら、私の傘はどこかへ消えていた。そう、どこの誰とも知らない野郎に持っていかれたのだ。確かにどこにでも売ってるビニール傘だから持っていきやすいのもわかるが、なぜピンポイントで私の傘を選んだのか。ビニール傘なら置き傘してる人もいっぱいいるだろうに。
いつまでも傘が無いことにうだうだと悩んでいる場合でもない。電車通学の私は一刻も早く駅に着かなければ。一本でも早い電車に乗って家に帰りたいのだ。幸いにもどしゃ降りではないので、多少…いやかなり我慢すれば帰れなくもないだろう。濡れるのは致し方ない。自分の決意が鈍る前に、私は雨の中へ身を乗り出した。



「うぅ…早く信号変わってくれぇ…。」


近くに雨宿りするような場所もない交差点。いつもなら特に気にもしない信号の待ち時間がもどかしい。
交差点の向こう側ならコンビニがあるから雨宿りも出来るのに、なんて思うのは当たり前のことだろう。
あぁ、なんだか体が冷えてきたかもしれない。明日熱が出るかもしれないなぁ。そんなことを考えながら信号が変わるのを待っていたら、何故か降っているはずの雨が体に当たらなくなった。


「やっぱりなまえちゃんだ。大丈夫?そんなに濡れて?」

「土門くん。」


振り向いた先にいたのは同じクラスの土門くんだった。彼が傘の中に私を入れてくれたから雨が当たらなくなったのだと、気が付くまで少し時間がかかった。


「え…あぁ大丈夫大丈夫!!それより土門くんが濡れちゃうから傘に入れてくれなくても…。 ほら、そこのコンビニで傘買って帰るし。」

「あれ?でも今月小遣いピンチだーとか言ってなかった?」

「う…しっかり聞いてたの、それ…。」

「同じクラスだからねー、聞こえてきたんだよ。」


軽く笑いながら、土門くんはそう言った。なんだかそれが様になっているようで、一瞬、ほんの一瞬だけカッコイイなんて、私は思ってしまった。


「なまえちゃんって確か電車通学だっけか。よかったら駅まで送っていくけど?」

「いや、でもそれじゃあ土門くんが遠回りになるんじゃ…。そんなに迷惑もかけられないよ。」

「俺んち、駅から結構近いから。なまえちゃんが気にすることじゃないよ。
それに俺がなまえちゃんを送っていきたいって思ってるんだから、ね?」



結局私は土門くんの好意に甘えて、駅まで送ってもらうことにした。でも…相合傘みたいな構図になってしまうのはどうも恥ずかしいなぁ。
土門くん、背も高いしスタイルもいいしサッカーも上手。結構女の子たちに人気もある…んだよね。そんな人とこんなことになってるなんて!なんだか今なら顔から火でも出せそうだ。

駅までは色々な話をしながら、ゆっくり来たような気がする。クラスのこととか、勉強のこととか。サッカー部の話も聞けたし。
こんなにゆっくり土門くんと話をしたのは初めてかもしれないな。同じクラスっていっても、そんなに仲が良かったわけじゃないしね。軽く挨拶するとか、そんな程度だったわけで。


「本当にありがとう土門くん。おかげで思ったより濡れなくてすんだよ。」

「こっちこそ、なまえちゃんと色々話せて楽しかったよ。」


駅に着いて、改めて土門くんにお礼を言う。なんだか少しだけ別れるのが寂しいなんて思うのはきっと自分の気のせいだ。それじゃまた明日、と言おうとしたらくしゃみが出てきた。あぁほんとに風邪ひいちゃったのかな。


「なまえちゃん、本当に大丈夫?」

「あ、うん。平気平気。熱が出ない限り学校は休まないから。」

「そういう問題じゃないんだけど…。」


苦笑しながら土門くんは、私に使っていた傘を差し出してくれた。傘と土門くんを見比べながら、私は首をかしげる。多分、頭の上にはてなマークが3個くらいは乗っかってるんじゃないだろうか。


「また濡れたらなまえちゃん、風邪が悪化するかもしれないじゃん。だから、持って行って使ってよ。」

「え…?でもそうしたら土門くんは…?」

「俺は平気平気。家も近いしさ。」


そう言って土門くんは私に傘を持たせる。なんだか本当に申し訳ないなぁ…。


「ごめんね、土門くん。今度なにかお礼でもしないと…。」

「お礼とか別にいいって!俺が勝手にやってることなんだし。」

「それだと私が納得できないから、さ。何かほしいものとか…そんなに高いものは買えないけど。」


うーんそうだなぁ、と悩み始めた土門くん。あ、いや別に今すぐ決めろってわけじゃなかったんだけどなぁ…。
ポンと手をたたき、それじゃあこんなのは?と土門くんはいたずらっ子のような笑顔を浮かべた。


「今度都合の合う日、デートしよう。」


はい?と私は思わず自分の耳を疑った。えっと、聞き間違い…だと信じたいような言葉が聞こえた気がしたのだけれど。


「えっと、デート…ですか?」

「うん。」

「私と土門くん、が?」

「そうだよ。」


聞き間違いじゃあなかったのか…。え、これなんて冗談?と聞き返そうとしたらいつのまにか土門くんの顔が目の前にあった。
何が何だかわけもわからずパニくってる私にフッと笑みを向ける土門くん。そして頬に何かが触れた。土門くんがキスをした、と頭が判断するまですごい時間がかかった気がする。


「じゃ、風邪ひかないように気を付けて。あ、それと傘を返すのいつでもいいから。」


そう言って、雨の中走って帰っていく土門くん。そんな土門くんの後姿を、私はぼーっと眺めていた。多分、今の私の顔は真っ赤だ。真っ赤すぎる。




rings on the water




明日もし熱が出たら土門くんのせいにしてやろう。風邪の熱なんかよりよっぽどたちが悪そうだ。
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