先生に頼まれて、私は今大量のノートを持って廊下を歩いている。たまたま職員室に用事があって、帰ろうとしたときに捉まってしまったのだ。 私には少し量が多いんじゃないかと思うノートたち。すでに腕がしびれてきている。やっぱり一回で持っていこうと考えたのがいけなかったのだろうか。 ふらふらと、ノートの重さに耐えながら目的地である教室目指して私は歩く。 「先生…、女の子一人にこれは、ひどい…よっ。」 教室まであと少し、という廊下の曲がり角。すでに腕はもう限界を迎えている。 もう少しでこの重さから解放されるんだ…!という嬉しさから、足が少しだけ速くなる気がした。 曲がり角に差し掛かったとき、横の方から何か強い衝撃を受けた。 「えっ」 「うわっ」 体が飛ばされる感覚。何が起きたのか分からず、腕に抱えていたノートたちも慣性の法則にしたがって宙に舞う。 あ、誰かとぶつかったんだ、と理解したと同時に急に体に慣性と別の力が加わる。 「なまえちゃんごめんな。ちゃんと前見てなかったわ。」 「あ、土門君。こっちこそごめんね!私も前方不注意だったし…。」 そのまま廊下に倒れるはずだった私を、土門君が助けてくれたようだ。ぶつかった相手を即座に助けられるなんて、さすがサッカー部なだけあるなぁとちょっと関心してしまう。 ふと廊下を見ると私がさっきまでもっていたノートが無残なまでに散乱していた。 「あらら…やっちゃった…。」 しゃがみこんで近くにあるノートから拾っていく。 ほんとゴメンな!と土門君も一緒にノートを拾ってくれる。土門君のせいじゃないよ、と笑いながらまたノートの山を作っていく。 大体のノートを拾い終え、また腕に重さが戻ってきた。あと少しとは言え、この重さに耐えなければならないかと思うと憂鬱だ。 ありがとうね、土門君。と私が言うと、こっちも悪かったしね、と笑いながら私の腕の中にあるノートの半分以上を持っていく。 「そこまでいいよ!あとちょっとで教室だし!」 「いやいや、その量を女の子一人じゃ辛いっしょ。オレでよければ手伝うよ。」 そういって笑顔を浮かべる土門君。なんていい人なんだろうと感動してしまう。先生もこれくらいの気遣いが出来たらいいのに。 じゃあいこっか、と土門君に言おうとした瞬間に、うわっ、と土門君が声をあげた。そして土門君が私の方へ倒れてくる。 避けようにも何が起きたのかがわからず、さらに手にはノートという重さもあって。私はなす術もなく廊下に倒れるしかなかった。 「ごめんな土門、なまえ!ちょっと急いでたから…ってなんで二人とも顔赤いんだ?」 どうやら土門君にぶつかったのは一之瀬君のようだ。きっと走っていて土門君とぶつかったんだろう。 けど、私と土門君は一之瀬君の謝罪の言葉など聞こえず、二人で真っ赤な顔を見合わせていた。 本当に、一瞬だったかもしれないけれど、さっき倒れこんだときに、私と土門君の唇が…。 「ほ、本当にごめんなまえちゃん!」 「い、いいよそんな!事故だよ事故!これは事故だよ、うん!」 真っ赤な顔で必死にそう思い込もうとする。またノートが周りに散らばってしまったので土門君から顔をそらすように私は必死にノートを集める。 ほ、ほら!一之瀬も手伝え!と土門君が言う。一之瀬君がマジでごめんな二人ともー、と謝ってくれたけど、今の私にはそれを処理できるほど脳内回路が機能していなかった。 騒がしい廊下で 土門君とき、キスなんてしてないよ!これは事故なんだから!と私は自分に言い聞かせる。 拾ったノートを持って二人で教室まで並んで歩いたけど、私も土門君も真っ赤な顔で無言のままだった。 お題:確かに恋だった |