小さい頃からサッカーが好きで、小学生のときはKFCでサッカーをしていた。FWだった。もう一人のFWとツートップ、私たちふたりは誰にも負けることのないツートップだった。

「ナイスシュートだね竜吾!」

「なまえのアシストのおかげだぜ!」

一番楽しくサッカーが出来た時期。試合は勿論、練習だって凄く楽しかった。学校よりも、早くKFCに行きたくてうずうずしていた。竜吾と競い合うのが小学生な私の一番の楽しみだったんだ。

中学生になって、私と竜吾は雷門中に進学した。雷門中にサッカー部はあったけれど、活動してるとは言い難い状況で。男子のサッカー部がそんな状況なのに女子サッカー部なんてものはあるはずがなく。

私はサッカーをやめた。


「こらぁ!ちゃんとパス回しなさいよ!」

「シュート入ったんだから別にいいだろー?まこのケチ!」


河川敷では今のKFCの子たちが練習をしていた。喧嘩しながらも楽しそうにサッカーをしている。今の私にはその姿がとても眩しく見えた。数年前にはあそこでサッカーをしていたはずなのに。


「…みょうじ?」


誰かに呼ばれた気がして振り向くと、そこには染岡がいた。雷門のジャージ姿の染岡。部活の練習帰りだろうか。
…小学生の頃は私たちふたり、名前で呼び合う仲だった。中学生になって私がサッカーをやめて…クラスだって違ったから段々と疎遠になって。いつの間にか互いを名字で呼ぶようになっていた。

「久しぶり、染岡。部活…頑張ってるみたいだね。」

「あぁ、試合も近いからな。」


雷門サッカー部は少し前まで廃部寸前とまで言われていたけど、ここ最近、急激に変わった。色んな強豪校に勝って、フットボールフロンティアだって順調に勝ち進んでいる。


「お前、もうやらないのか?…サッカー。」


染岡からそんなことを言われて、私は目を見開いた。サッカーをやめて一年と少し。その間染岡にサッカーについて何か言われたことなんてなかったから。


「…サッカー、やれるとこ…ないから。」


私は染岡から目をそらしてそう呟いた。
今更KFCには戻れない。雷門にだって女子がサッカー出来るところなんてない。…自分にそう言い聞かせて大好きだったサッカーから目を背けてるんだ、私は。


「…ちょっとこっち来い。」

「えっ?ちょ、染岡!?」


急に手を取られ、染岡に引っ張られるように河川敷に降りていく。サッカーグラウンドの前まで連れてこられて、そこでようやく手をはなしてもらえた。さっきまで練習していたKFCの子たちは、もう時間も遅くなってきたからか、みんな帰るようだ。


「ほら、」


染岡が私にボールを渡す。久々に触るサッカーボール。どくん、と心臓が跳ねた。


「ナイスシュート、なまえ。」


そう染岡の声が聞こえた。前を見るとボールがゴールネットを揺らしている。無意識のうちに私はボールを蹴っていたのだ。
何かが体を駆け上がる感覚。走って、蹴って。あぁ、やっぱり


「私…好きだ…サッカー好きだよ、竜吾…」


目からボロボロと涙がこぼれ落ちる。目をこすって涙をとめようとしたけど、どうしてもとまらない。


「泣くくらい好きならやめたりするんじゃねーよ、馬鹿。」


コツンと頭を叩かれる。うるさいと言い返そうにも声がうまく出せず、言葉にならない。私は竜吾に抱きついてまた泣いた。竜吾は最初驚いたような声を上げたけど、私を落ち着かせるように背中をポンポンと叩いてくれる。
しばらくして、私の涙もようやく止まった。竜吾に変なとこ見せてごめん、と少し笑う。


「なぁなまえ。」

「何?竜吾。」

「サッカーなんざどこでも出来るんだ。部活は無理でも、サッカーやりたかったら俺を呼べ。」


昔みたいにまたやろうぜ。そう言って竜吾は笑った。
また涙が出そうになるのを我慢して、私も笑う。

「また、一緒にやろうねサッカー!」


ずっと心に引っかかっていた何かがストンと落ちたみたいだ。きっと今ならKFCの子たちやサッカー部の人たちを見ても笑えると思う。




たそがれの空




少し離れてた間に竜吾は凄く成長してたんだ。
…何だか昔よりずいぶんとカッコよくなったんだ、なんて思ったら頬が少し赤くなってしまった。

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