なんかね、私にだけ態度が違うっていうか…それまで普通に話してたのに私が近づいて話しかけようとすると急に強張った顔して私から逃げるみたいに離れていくんだ。
ちょっと前とかは全然普通に私と話してくれてたのに…つい最近からなんだ。私と話してくれなくなって…。

どうしよう…私土方くんに嫌われちゃったのかな?



「で、それを隣にいる綱海じゃなくて俺に相談するのかい?」

「だって…綱海に言ってもそんなもん海の広さに比べたら以下略って返ってくるとしか思えないもの!」

「うん…確かにそうだね…。」


ひっでーなぁと綱海のほうから聞こえるけど間違ったことは言っていない、と思う。だって音村くんも否定しなかったし。
苦笑いしながら音村くんはそうだな、と考え込むような仕草をする。そんな音村くんを私は神にすがるような気持ちでじっと見つめる。色々考えてみたけど、私自身では土方くんに嫌われた原因が本当にわからない。しばらくは一人で考えてみたけど解決策など浮かぶはずもなく、土方くんの態度も硬化していく一方だし…。


「その、土方の態度が変になったのはいつくらいから?」

「え…?確かひと月、ふた月くらい前…、だったかなぁ。」


そう質問されてぼんやりと記憶を思い出す。最後にちゃんと話したときは…確か土方くんに持ってた荷物を持ってもらって…そのお礼にって前に手作りしたお菓子をプレゼントした…気がする。
うん、それくらいしか思い出せない。それを聞いた音村くんは何か思うことがあったのか何か独り言をぶつぶつ言っている。一人で考えないで私にも教えてよ!と音村くんに詰め寄る。いや、でも…と音村くんは口ごもってなかなか話してくれない。


「なんでそこで口ごもるの?なんで?」

「これは…彼の男の沽券に関わるというか…俺の口から言っていいものじゃない、と…。」

「俺は別に言っちまっても構わねぇと思うけどなー。」


音村くんの隣でのんきに雑誌を読んでいた綱海が急に話に加わってきた。雑誌からは目を離さず口を挟んできた、と言ったところか。
というか綱海は土方くんのことなんか知ってるの?その事実に驚きを隠せない(それなら綱海に相談しても良かったのかもしれない…)私は息を飲んで綱海の次の言葉を待つ。
本当にいいのか?と音村くんは少し苦い顔をしている。どうしよう…これ聞いたらもっと土方くんに嫌われちゃうのかな…。段々綱海が発するであろう言葉を聞くのが怖くなってきた。けれど、ここで聞くのをやめたら土方くんとはずっとこのまま話せずに、ずるずると関係がなくなってしまう気がする。
だったら一か八か、原因を聞いて、それから解決策を考えればいい。そうだ、前向きに考えないと土方くんと仲直りなんてできないんだから!


「…覚悟はできた!だから私が土方くんに嫌われた原因教えてよ綱海!」

「そんななまえが思いつめる必要ねぇんだけどなー。元々はいまだに言えないアイツが悪いわけだしよー。」

「へっ?」


原因は私じゃない…の?そうとも思えるニュアンスで話す綱海の言葉に毒気が抜けた、というか拍子抜けした、というか。急に張りつめていたものが切れた、というか風船を針で刺したときのように空気が抜けていくような感覚。それでも耳だけは綱海の言葉を拾おうと必死だ。
続きの言葉を発しようとした綱海。その隣で音村くんが何かに気がついたように綱海に止めた方がいいと言っているのが目に入った。けれど綱海はそんなのお構いなし、と言ったように言葉を続ける。


「土方なー、恥ずかしがってんだよ。なまえとうまく話せないからって避けちまうんだろ?」

「それってどういう…?」

「だーかーら、土方はなまえのことが好きだってことだろ?」


さらっと言った綱海の言葉をさえぎるように、後ろの方から大きな声が聞こえてきた。この声は土方くん、だ。綱海!!と怒ったようなあわてたような声でこっちへ向かってくる。綱海はあっけらかんとした顔でよぉ土方!なんて言ってるし。だから言わんこっちゃないと言わんばかりの表情で音村くんは私たち3人(特に綱海)を見る。


「おまっ、綱海…!人がいないところで何言って…!」

「別にいいじゃねぇか。減るもんでもねーだろー?」

「そう言う問題じゃ…。」


あーだこーだ、と土方くんと綱海が言い争い(ってほどでもないけれど)を始めたのを私はぼんやりと眺める。というか、脳内の処理が追いつかない。まるで考えることを放棄してしまったようだ。
そんな3人を見ていた音村くんが綱海の首根っこを掴んだ。まるで猫を掴むようだ。二人で言い争ってもしょうがないだろう?と綱海を諭すように言いながらズルズルと綱海を引きずっていく。ま、あとは当人同士で頑張って。と音村くんが手を振りながらこの場から立ち去っていく。え、いやちょっと待って!土方くんと話はしたかったけどこの状況で二人っきりっていうのはそれはそれでちょっと困るよ音村くん!


「あー…なまえ。」

「は、はいっ!なんで、すか?ひ、土方くん…。」

「綱海の言葉…どこまで聞こえた?」

「…僭越ながら、最後まで…。」


マジかよ、と土方くんがぼりぼりと頭をかく。そう、土方くんの大きい声にびっくりはしたけれど、綱海が言ったことはしっかりと私の耳に届いてしまったわけで。
土方くんが、私のことが…好きとか。いやそんな、いやいやですよ。だってつい先日まで全然話もしてくれないくらいで嫌われてるとばっかり思ってたのに。綱海の言ったことはきっと嘘で、土方くんはきっと否定してくれる、よ!(でもそうなったら、なんか…嫌だな…)


「その、今まで悪かったな…。なんつーか、なまえのこと意識しだしたら、どーでもいいような話もできなくなっちまってよ。」


顔を赤くしながら、ぽつぽつと土方くんが話をしてくれる。久々にこんな近くで土方くんと話をしている気がする。たったそれだけのことなのにちょっと恥ずかしくなって、でもすごくうれしくて。
私のこと、嫌いになったわけじゃない?と尋ねるとそんなことあるわけねぇじゃねぇか!と土方くんが大きな声で言ってくれた。私と話すのが、恥ずかしかったの?と質問したら、さっきも赤かった顔がもう少し赤くなって「あぁ、そうだよ」と肯定してくれた。そんな土方くんを見ていたら心がふわふわしてきて。


「土方くん、かわいい」


気が付いたらそう呟いていた。男に可愛いはねぇだろ…とちょっと悔しそうな顔をする土方くんを見て、ふふっ、と思わず笑みがこぼれた。
今までの心配が自分の思いすごしだったというこということへの安心と、新たな土方くんの一面も見れて。良かった、本当に。




てれ隠し故の、



ね、もう一個だけ言ってほしい言葉があるんだ。そう言って土方くんに笑いかけると土方くんはあー…、そうだな。今更って感じもするけど。とはにかむような表情で私の望む言葉を言ってくれた。



「俺は…なまえが好きだ!」



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