「よし!次は8対8のミニゲームを行う!」


そう二階堂監督の声が響く。先ほどまでの基礎練の疲れもなんのその。木戸川のサッカー部員たちは嬉々として自分のポジションへ向かっている。なんだかんだで、結局はサッカー馬鹿の集まりなんだ。かく言う俺だってその一員なんだけれど。

全員がそれぞれのポジションに着いた。俺は近くに居る女川とアイコンタクトを取る。相手チームにはあの武方先輩たちがいるのだからDFの俺たちは気が抜けない(ミニゲームでも3人一緒じゃないと嫌だ、とは流石三つ子とでも言いたくなる)まるで試合のときのような緊張感。この高揚感はとても心地良い。
監督が試合開始のホイッスルを吹こうとした、その瞬間。


「にーしーがーきー!まーもーるーっ!」


急に聞こえてきた声。あまりの声量の大きさに緊張の糸がぷっつりと切れてしまった。ワンテンポ遅れて認識した、謎の声に呼ばれた名前。…俺の名前だ。俺は周囲を見渡して声の主を探す。監督や先輩たちもさっきの声に驚いたのか、ポカンとした顔で俺を見ている。いや、俺のせいではない!…はずだからそんなに見ないで下さい…。


「にーしーがーきー!居ないのー?」


また聞こえてきた声。ちょっと高めの…女の声だ。どこかで聞いたことのある声。思い出せないまま、さっき声が聞こえた方向、校門の方に顔を向けた。そこに居たのは、


「なっ、なまえ!?」


声の正体を見つけた瞬間、俺は走り出した。なまえの方も俺のことを見つけたらしく、西垣ー!とブンブン手を振っている。


「お前、何でここに居るんだよ!ここ木戸川だぞ?」

「知ってるよーわざわざ新幹線乗ってここまで来たんだし。」


そういう事を聞いてるんじゃない…と軽く頭を抱える。監督や先輩たちが近づいてくるのが視界の端に見えた。やっぱりなまえについて気になるんだろう。


「あー…西垣?そちらのお嬢さんは…?」


西垣の彼女ー?と監督の言葉に続いて勝先輩が茶化してきた。そんなんじゃありません!と思わず叫んでしまった。もしかしたら顔も赤いかもしれない。幼なじみですよ、とこぼすと何だか意味ありげな顔でふーん、と努先輩に言葉を返された。

「こんにちはー!西垣の幼なじみの一之瀬なまえです!」

「え、一之瀬…さん?」

「あー、雷門中の一之瀬の妹です。こいつ。」


なまえの自己紹介に監督がびっくりしたみたいだ。俺が軽く補足説明すると監督も先輩たちも納得したみたいだ。ちなみにに西垣と同い年です、となまえが言い出したから軽く頭を叩いてやった(そこまで聞いてねーよ、馬鹿)
で、俺はなまえと顔を合わせて、また質問をする。何でここになまえが居るんだ、と。


「久しぶりに西垣に会いたくなった、じゃダメ?」

「…そんな理由だけでお前が来るとは思えないな。」


大体キャリーまで持ってきて、ただ会いにくるだけならいらないだろそれは。確実に別の理由があるのがわかりきっている。


「えっとね、家出してきちゃった!」


だからしばらく西垣のとこでお世話してもらおうかと思って。
なまえがさらっとそんなことを言うものだから、最初は思わずふーん、と受け流してしまった。二階堂監督や武方先輩たちの方が驚く声を上げたときに、ようやく理解した。


「お前…!また一之瀬と喧嘩しただろ…。」

「だって一哉私のプリン勝手に食べたんだよ!しかも謝りもしないし!」


そんなしょーもないことで…と友先輩が呟くのが聞こえた。もっとなまえに言ってやって下さい。
一之瀬と些細なことで喧嘩しては俺のところに転がり込むなまえ。付き合い長い俺でも呆れしか覚えねーよ。
あー、一之瀬さん?と監督がなまえに声をかける。一之瀬じゃなくてなまえって呼んで下さい!なんてなまえは言う。監督困ってるだろオイ…。


「家出なんて、ご家族が心配してるんじゃないかい?」

「あ、大丈夫です。土門には西垣のとこ行ってくるって言ってきたので!」


…ドンマイ、土門。お前も相変わらず一之瀬兄妹に苦労してるんだな…。
監督もそ、そう…とか苦笑いをしている。なまえ、というか一之瀬兄妹は自由奔放すぎるんだろうな。普通やらないことをやるのがあいつらだから、普通の人には理解されにくいんだろう。
とりあえず俺はなまえの頭を軽く叩く。もうため息しかでねーよ、バカ。


「母さんが良いって言ったら一泊くらいはさせてやる。後来るときは連絡くらいよこせ。」


いきなり来られると心臓に悪いだろ、と言ってる最中になまえは俺に抱きついてきた。


「ありがと西垣っ!やっぱり頼れるのは西垣だけだよー。大好きっ!」


すいません監督、今日早退します。と言いながらなまえを引き離そうと俺は悪戦苦闘する。ここはアメリカじゃねーんだからそうホイホイ抱きついたりすんなっつの!
ほら!何か武方先輩たちとか女川と屋形とか意味ありげな顔で俺ら見てんじゃねーか!なまえとはそんな関係じゃねぇし!




破天荒girl




けど、そんな自由すぎるなまえが羨ましくもあって、絶対的に嫌いになんてなれねぇんだよな。
…やっぱり俺なまえに甘いよなぁ…。

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