「あ、杉森じゃん。」

「…みょうじ、か?」


夏祭りが開かれている今日。会場である神社から少し離れた静かな場所で、私は杉森とばったり出会った。
いつもの制服やユニフォーム姿ではなく私服の杉森。なんだか珍しい感じがして、ちょっとだけ違和感を覚える。


「なんで杉森はこんな場所に来たのさ?なーんもないのに、ここ。」


茶化すようにそう尋ねると、杉森は「いや…巌がな…」とため息をつく。
それを聞いてあぁ、なる程。と納得した。


「寺川、また迷子?」

「…あぁ。サッカー部の奴らと来たんだが…ちょっと目を離したら見失って、な。」


あいつも困った奴だ、と杉森は苦笑する。寺川は方向音痴の癖にふらふらとしたがるから被害も大きくなるんだろう。サッカー部の面々も大変そうだ。


「ところでみょうじは何故ここにいるんだ?」


それこそみょうじがいる理由が分からない、と杉森は私に問いかける。
私はこれのせいだよ、と足下を指差した。


「下駄…の鼻緒が切れたのか?」


そうなんだよねーと私は軽く笑う。
夏祭りだからと調子に乗って慣れない浴衣と下駄で来たものはいいが、はしゃぎすぎて鼻緒が切れてしまったのだ。
更に鼻緒が切れた際にバランスを崩し足首を捻るというバカまでやらかしてしまった。痛みのせいで歩くことが億劫になり、人気の少ないところでこうして休んでいるという訳だ。


「友達ともはぐれちゃったし、携帯も電池なくなってさ。」


打つ手ナシってやつ?と私は乾いた笑いを浮かべる。杉森はそんな私を見てため息をつく(そんなあからさまにバカにされるとちょっと傷つくぞ)

杉森はしゃがみ込んで、壊れてしまった下駄に手を伸ばしていた。少し悩んで、器用な手つきで鼻緒に手を加える。


「おぉ、杉森凄い!直せたの?」

「いや、あくまで応急処置にしかならないと思う。」

しかし杉森の手にあるのは十分に履けそうな下駄。そんなことがパパっと出来ちゃうなんて、杉森って器用なんだと感心する。
けど、


「直してくれたのは有り難いんだけど…履ける気がしないんだよね…」


そんなに痛いのか、足。と杉森が言う。
休めば良くなるかな?なんて思っていたけどそんなことはなく、逆に痛みは増している気がする。もしかしたら捻挫、かも?


「みょうじ。俺で良かったら背負っていくが…」

「…へ?」


私は流石にそこまで杉森の世話にはなれないよ!とブンブン手を振る。下駄直してくれただけでも有り難いというのに。

杉森があー、と唸るような声を出してもう一度私を見る。


「…みょうじを置いていくと、心配だからな。」


だから、せめて神社の入り口くらいまでは送らせてくれ。
そう言う杉森が本当に私のことを心配してくれているような顔をしていて。
本当に、いいの?と私は問いかける。


「あぁ、ついでに巌探しも手伝ってくれると有り難いな。」

「あ、ありがとう杉森!私、寺川探し頑張るから。」


杉森におんぶしてもらって、私はまず重くない?大丈夫?と第一声を発する。むしろ軽いくらいだぞ、みょうじ。と杉森は軽く笑う。


(やっぱ杉森って大きいんだな…)


杉森が男子の中でも大きい方だとは分かるけど、それでも自分より大きい背中にビックリする。目線だっていつもより全然高い。
頼もしい背中、だな。なんて。


「どうしたみょうじ?急に黙り込んで。」

「そ、そんな、杉森がカッコいいとか考えてると…か…」


急に話しかけられて、思わず考えてたことが口から出てしまった。気がついたときにはもう杉森の耳にも届いた後で。

その後は二人して真っ赤な顔しながら、会話もしないで夏祭りの人混みをかき分けていた。



迷子と鼻緒がきっかけで



ちなみに寺川は他のサッカー部の子たちが無事保護したらしい。

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