いま、私の目の前にはぐっすりと眠った円堂くんがいる。たぶん、サッカーの練習とかで疲れちゃったんだろう。すごく気持ちよさそうな顔で眠っている。
こんなに熟睡してるんだったら起こさないほうがいいかなぁ、とか思うけど…。でもやっぱり部室の床で眠ってる、というのはさすがに見過ごせない気がする。起きた時とか体の節々痛くなりそうだし。


「円堂くん、円堂くんってば。」


軽く肩をゆすってみる。思った通り反応がない。そんなに疲れてるのかな。サッカーに夢中なのはいいことだけど、もうちょっと自分の体とか気をつけたほうがいいと思う。いつか怪我とかしちゃいそうでなんだか心配だ。
今度は思いっきり、円堂くんの肩をゆする。それからさっきより大きい声で呼びかける。


「円堂くん!起きてー!円堂くんっ!」

「…んー?なまえ…?」

「ほら、円堂くん。こんなとこで寝ちゃだめだよ。帰ろう?」


少し目を開けて、私のほうを見る円堂くん。よかった、起きてくれたんだ。と私はほっと息を吐く。
円堂くんは寝ぼけているのか、ぼけーっとした顔で。その顔がなんだか可愛いなぁなんて思っちゃう。普段は頼りになるキャプテンでも、やっぱり普通の中学生なんだなぁ。


「…なまえも、一緒に寝よーぜー…」

「ふぇ?」


私の視界が急にぶれた。一瞬何が起こったのかよくわからなくて。気が付いたら私は円堂くんの腕の中にいて。


「え、えええ!円堂くん!?」


思わず大きな声が出た。な、なんで私が円堂くんに、だ、抱きしめられてるの!?
元凶である円堂くんは、また夢の世界に旅立ってしまったようで。気持ちよさそうな寝息がすぐ近くで聞こえた。か、顔も近いよー!


「円堂くんっ!放して!おーきーてーよー!」


円堂くんから離れようともがいてみるけど、円堂くんの腕はびくともしなかった。さ、さすがGK…。普段は頼りになるその力強さが、今の私にはちょっと、いやかなり、困る。
彼は本格的に寝入ってしまったようで、なんかもう、何をしても起きないんじゃないかって思ってしまった。
男の人に抱きしめられることなんて初めてだから(きっと円堂くん的には抱き枕くらいにしか思ってないと思うけど)、心臓がすごく、バクバクいってる。自分じゃ分からないけど、きっと顔も真っ赤なんじゃないだろうか。


(あ、円堂くんの心臓の音が、聞こえる)


とくん、とくん、と一定のリズムを刻んで聞こえてくる音。私の心臓の音じゃない、きっと、彼の音だ。
その音に耳を澄ますと少しだけ落ち着いてきた。なんだか安心できる、そんな風に感じた。円堂くんの、少しだけ高い体温も伝わってくる。最初はすごく恥ずかしかったけど、あったかくて、心地いい。
あぁ、なんだか私まで、眠くなってきちゃった。


(ちょっと、くらいなら)


大丈夫だよね、と睡魔で少しずつ鈍り始めた思考回路がそう判断した。ちょっとだけ、円堂くんの背中に手をまわして、ギュッと力を込める。そして小さな声でおやすみなさい、とつぶやいた。




ポピーを抱いて




二人でぐっすり眠ってたところをほかのサッカー部の人たちに見られて、しばらくからかわれたのはまた別のお話。


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