今度の文化祭、サッカー部で何かやろうよ! そうなまえが言い出したのがひと月前。鬼道さんや総帥の許可を得て、模擬店の出店許可をもぎ取ってきたのが2週間前。そもそも何をやるのかは俺らサッカー部員には全く知らされてなかった、んだが…。 「なんでサッカー部でメイド喫茶なんてやることなってんだぁぁあああ!」 目の前に居るのは、メイド服を着た成神と洞面の姿。「すっげーひらひらして動きにくいなこれ!」とかなんかはしゃいでやがる。お、お前ら…、男としてのプライドとかそういったもんはねーのか…。目の前の現状を認めたくなくて、これは夢だ、夢に違いないとぶつぶつつぶやく。あの帝国サッカー部のレギュラーがこんなことをするとか、悪夢以外のなにものでもない。 急にぽん、と肩を叩かれた。振り向いた先に居たのは満面の笑みを浮かべたなまえ。笑顔のはずなのに、その表情に俺は戦慄する。 「ほら、辺見のだよ!丈とか色々直したいから早く着替えてきて!」 そう言って差し出されたのは一着のメイド服。いやいやいや!マジ無理だって!俺にこれを着ろっていう方がおかしいだろ! 「ぜってぇ着ねぇからな!」 「なんでさ!せっかく一生懸命夜なべして作ったのに…。」 ひどいわ!辺見のためにわざわざクラシックタイプにしたのに!とか叫びながら泣き始めるなまえ。いや、どう考えてもそれは嘘泣きだろお前…。そもそもこんなことで泣くような繊細な神経してねぇ奴だろ。あー辺見先輩がみょうじ先輩泣かせてるーなんて成神が言っているが無視だ無視。 「なんだ辺見、逃げるのか?」 やってられねぇ、とさっさと帰ろうとしたとき、後ろから佐久間に声をかけられた。別にてめーには関係ねぇだろ、と振りむいた瞬間、持っていたカバンを落としてしまった。え、ちょっ…まさか…。 「お前もなんでメイド服とか着てるんだよ!」 そこに居た佐久間はミニスカメイドを着こなし堂々と仁王立ちしていた。地味に似合ってるのが、なんかイライラする。お前男だよな…。けど、佐久間がタダでこんなことをやり始めるとは思えない。 「佐久間…なまえに何もらった?」 「ポッチャマドール大中小あわせて10匹。」 「しっかり買収されてんじゃねぇえええええ!」 よくよく見ると、佐久間のロッカーから紙袋の持ち手部分がはみ出ている。そうか、あの中に入ってるのか…。しかし本当に佐久間はペンギン好きだな…。もうここにはまともな人間はいないんだろうか、と遠い目をしたくなる。 こういうのって割りきっちゃった方が楽だと思うっすよー、なんて成神がヘラヘラ笑っている。割り切れるかこんなもん! ほら、辺見行くよ!みんな頑張ってるんだから辺見だけ逃げようったってそうはいかないからね!なんてなまえが俺の肩を掴んで更衣室に押し込もうとする。佐久間にも片腕を掴まれ、逃げ場がない状況だ。嫌だ!俺はメイド服なんて着たくねぇ!バタバタと暴れながら抵抗をするが二人掛かりだとさすがに逃げ出すことができない。 前のほうに見える扉から、茶色い髪が見えた。あれは、源田…!居ないと思ったらそんなとこにいたのか! 「源田!こいつらどうにかして…」 くれ、と続けるはずだったんだが、源田の格好を見て思わず絶句してしまった。最後の砦だと思っていた源田ですら、既に陥落済みだったのか…。しかもお前…メイド服じゃなくてチャイナ服とか、そっちもそっちでひどいことなってんな…。 なまえと佐久間の二人に捕まってる俺を見た源田が哀愁漂う表情で俺の肩をポン、と叩いた。 「辺見…諦めろ…。」 その言葉を最後に俺は二人に連れられて更衣室に連れ込まれた。なんつーか、源田を見たら抵抗するのも無駄なように思えてきたとか、な…。諦めも肝心なのかもしれない、と学んだ日だった。 メイドインチャイナ 「…思ったより、似合わない…。」 着替え終わって部室に戻るとなまえにぼそっと、そう言われた。くそ、だからこんなの着たくなかったんだ!全部お前のせいだろうが! |