19.甘噛み





「かーいとっ♪」

「なんだよ、痛っ!」


実はそんなに痛くないけど、不可抗力で痛いと言ってしまう。

名前は甘噛みするのが癖だった。
特に、幼馴染みの俺には。


「えっへっへ」

「なんだよ気持ち悪いなぁ」

「痛かった?」

「こんなの痛くねーし!」


ニヤニヤ笑う名前が可愛くて。
甘噛みされたあとに、頭を撫でるのが俺の癖だった。

その後、青子も加わった3人で共に同じ中学、高校に上がった。

大人になるに連れて名前のその癖はなくなり、それと同時に俺が頭を撫でる機会もなくなった。
絶滅危惧、というか、もう絶滅。
いつから頭を撫でていないだろう。

なんとなく寂しい気持ちになる。

久々に撫でてーな。

なんて思いながら、隣の席の名前に手を伸ばす。


「えっ、何っ?やめてよ恥ずかしいから」

「いいじゃん付き合ってるんだし」

「授業中でしょ」


……昔の名前の方が可愛かった。


「成長したよな、おめーもさ」

「そう?」

「体なんてとくに」


語尾にハートをつけて体を見ると、ムッと睨みつけられた。


「変態」

「そりゃあ褒め言葉をどーも」


フンッと前を向いてしまった。
昔の無邪気な笑顔が恋しいぜ。


「おい黒羽。彼女ばっか見てないで授業中くらい黒板見ろ」

「黒板見るより彼女見た方がいいに決まってんだろー?」

「なっ!快斗!恥ずかしいからやめてよ!」

「んだよ最近冷てぇな!」

「変わってないよ!!」

「夫婦喧嘩は終わってからにしてくれー」


ーーーー


放課後、いつも通り名前と手を繋いで外へ出る。
名前はいつも俺の家で飯を作って、一緒に食ってから家に帰る。
母さんがいないから、ちゃんと飯食ってるか不安なんだと。
将来はいい俺の嫁さん決定だな!


「……なぁ名前」

「んー?」

「今日泊まって行かね?明日土曜だし」

「……下心見え見え。いいけどさ」

「そ、そんなんじゃねーよ!」


まぁ下心ないわけじゃねーけど。

結局名前は急遽俺の家に泊まり。
心の中で盛大にテンションが上がっている間に家に着き、早速飯を食った。


「あー腹いっぱい!ごちそーさん!」

「私も〜」


2人で食器を片付け、ソファーに並んで一息ついた。

なんかすげー夫婦みたい。


「なんかさー、料理も美味いし、いつの間にか家事も出来るようになってたし、ほんと成長したよな。甘噛みされてたのが懐かしい」

「そういえば、やってたね。昔」

「少し寂しい感じ。まったくやられなくなると」

「ねぇ快斗」

「ん?どうし、いってぇ!!」


いきなり腕を噛まれ、名前の顔を見れば、あの頃の無邪気な笑顔だった。


「痛かった?へへ」

「ちょー痛てぇ。歯も成長したな」


大人になった名前の甘噛みは、昔と違って痛かった。
でも久々なのが嬉しくて、昔の様に頭を撫でた。


「快斗、手おっきくなったね」

「そりゃーなぁ」

「私の甘噛みは、好きって事だよ」

「じゃあ甘噛みが強くなったのは、もっと俺の事好きになったってこと?」


維意地悪く笑って聞けば、素直に“そうだよ”と答えた。

俺はもう、いつか噛み殺されても悔いはないと思うほど、名前の愛に飢えているみたいだ。


ーENDー


「でもやっぱり殺されんのはやだなー」

「はい?」

「やっぱり次からは言葉で……いや、時々ならされても……」

「だからなんの話さぁっ!!」

「いってぇ!!」




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