15.痕跡



「売ったぁ?!」

「いらねーやつだと思ったからよ〜……」


俺の大切なシャーロックホームズの本を蘭に貸した。でも何故か無くなったって言うから一緒に蘭の家に探しに来てみると、どうやらこのおっさんが売りに出しちまったらしい。

このクソオヤジ……!


「俺行ってくるわ」

「もーお父さん!新一に謝ってよ!」

「ここに持ってくんのがわりぃんだろー?」

「私が借りたの!新一、ごめんね」

「おめーのせいじゃねぇよ」


おっさんが売りに行く場所は大体検討がつく。まだ売りに出したばかりらしいから、今行けば買われている事はないだろう。

なんて思いながら駆け足でちょっと急いで古本屋へ。
着いてそのまま早足で置かれていそうな場所へ向かうと、凄く大人っぽい同じ学校の制服を着た女がいた。
校章からして1年生。
その手には、俺の本があった。


「あ……」


なんて言ったらいいのかわからず間抜けな声を出せば、静かな本屋では恥ずかしい程にそれが鮮明になる。

本を読んでいた彼女も、少し驚いた様に俺を見た。


「……工藤新一君?」


本をパタリと閉じ、微笑んだ彼女の第一声は俺の名前。


「えっ……なんでわかった?」

「この本を見て声を出してたし、痕跡本だったから」


落ち着いていて大人っぽいからか、最初から敬語を使われなかった事に違和感や嫌悪感は感じなかった。


「痕跡本……?俺の名前なんて書いてあったか?」

「うん、ここだよ」


また本を開いて俺に見せ、指をトントンして一部を指す。

あぁ、これか。
蘭と俺の名前を書いて間にハートを落書きした園子に、叱った事があったっけ。
こんなの、いい晒しもんじゃねぇか。


「毛利蘭さんって、なんか知ってるなぁと思ったら同じ高校だったんだね。彼女さんかな?」

「いや、幼馴染み。蘭の友達が落書きしただけだ」

「そっか」

「わりぃ、それ勝手に売られた大切な本なんだ。俺買っていい?」

「いいけど……私も見たいな」

「貸してやるよ」

「やったぁ♪ありがとう」


見た目とは一変して無邪気な笑顔を見せてくる彼女に、ドキリと心臓が鳴った。


「接点が増えたね」

「あっ、え、うん……だな」

「私、名字名前。よろしくね、新一君」

「よろしく……」

「そういえば、2年生だったんだね。ごめんなさい」

「あぁ、いいよ。なんか1つ下って感じもしなかったし、敬語は無しで」

「ありがとう。……新一君、この後時間ある?」

「あるけど」

「ご飯でもどう?」


本を俺に渡し、顔を覗き込むように聞いてきた。


「新手の逆ナンか?」


なんて冗談で言うと、もー。とため息を着いた彼女はレジへ向かう。慌てて着いて行くと、顔だけこっちに向けて微笑んだ。


「仲良くなった人とは、お近づきの印にご飯へ行く。基本だよ、ワトソン君」


妖艶な笑みを浮かべた彼女。
小悪魔っぽいところがありそうだが、そこも嫌じゃない。


「応えてやるよ、その新手の逆ナン。あと、正式にはワトソンじゃなくてワトスンな」

「うわぁ、細かーい」


この痕跡本をきっかけに、俺の人生は面白くなりそうだ。


ーENDー




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