12.奪いたい
『今宵満月の元、5番目の宝石を頂きに参ります。怪盗キッド』
「……またよ……」
「またですね」
お手伝いさんと共に、深いため息をついた。
名字財閥の娘の私。
両親が海外に出かけている間を狙われ、5つのうち最後の宝石が、今夜狙われている。
今のところ盗まれた3つはすぐに返って来ているので、両親には伝えていない。
伝えると大事になってめんどくさいしね。
でも、何故うちの宝石ばかりを狙うのだろうか。他の財閥には、もっといい宝石をたくさん持っている所もある。
「一応、ベランダにも警備をさせておいて」
「はい」
頭を下げたお手伝いさんを見送り、自分の部屋へ戻る。
その後警備員2人がベランダに立った。
さて、そろそろかと警戒した直後、警備員の叫びと共に何か噴射する音が聞こえ、慌ててベランダを覗く。
「こんばんは、お嬢さん」
「来たわね」
横たわる警備員が寝ているだけだと気付き、キッドを睨む。
「何故、私の家ばかり狙うの?」
「大切な宝石があるからですよ」
「でも返してくる。どうせ最後の宝石も盗むんでしょ?」
「ええ。でも、これが最後ではありません」
いつの間に盗んだのか、今夜狙われていた宝石を私に返し、不敵な笑みを浮かべた。
「え、最後じゃないの?でももううちには宝石は無いけど……」
「最後は最も大切な宝石……名前嬢を奪いに来ます」
「えっ……?」
最後が、私……?
「それは……どういう事?」
「名前嬢に、魅入られてしまったからですよ」
「わぁっ……!」
刹那、ポンっ!とバラが目の前に現れ、驚きと共に嬉しさが込上がった。
「素敵な怪盗さんね」
「それは光栄です」
「怪盗なんかやめて、マジシャンになればいいのに。例え返したとしても、やっている事は犯罪よ?」
「わかっています。それでも、やります」
切なげに笑った顔を見た瞬間、私が踏み込んではいけない事なんだと理解した。
きっと彼は、やらなきゃいけない、という信念を持ってやっている。
だから、もう言わない。
「ごめんなさい。捕まらないようにね」
「何故貴方が謝るんです?その必要はありません」
「……」
「では、次の逢瀬に。最後は、貴女を奪いに来ますよ」
「……っ」
手の甲に軽くキスをされ、彼は去って行った。
「次は……いつ来てくれるのかしら」
私の返事はもう、とっくに決まっているというのに。
ーENDー
「あーめんどくせー」
青子に呼び出され、買い物に付き合う事になった。
ほんとめんどくせー。
道を歩いている途中で、1人キラキラと輝いて見える女の子がいた。
名前だ。
行くしかねぇだろ。
「……なぁ、これって運命だと思わねー?」
「えっ。あ、あなたは……?」
「俺?俺は黒羽快斗。よろしくな、名前」
「!!」
ポンとバラを出すと、数10秒後には名前の香りと腕の中に温もりを感じた。
ー後日談ー
「キッドー♪」
「名前ちゃーん。そろそろ快斗って呼んでくれないかなぁー」
「キッドの方がいいっ」
「えー」
なんて残念がったけど、口元が緩むのはきっと幸せだからだ。
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