11.微糖
「梓さん、お疲れ様です」
「お疲れ様です、名前さん」
「お疲れ様です」
梓さんが上がり、次に私が上がる。
この後用事も無い私は暇な為、客として
席に座った。
「あー疲れたー」
全身の力を抜いて、テーブルに項垂れる。
「お疲れ様です名前さん。なんか飲みます?」
「ん、コーヒー。あったかいの」
「ブラックでいいですか?」
「砂糖ちょっと」
「了解です」
今日帰ったら洗濯しなきゃ、とか考えていると、コトンと音が聞こえ顔をあげた。
「出来ましたよ」
「んー。ありがとう」
お礼だけしてまた机に突っ伏すると、随分疲れてますね、と言われまた顔をあげた。顎をテーブルに乗っけて、まだ熱いコーヒーの湯気を見る。
「なんか最近疲れ取れなくて」
「名前さん、微糖が好きなんでしたっけ?」
「え?うん」
話が噛み合ってないなぁ。
「疲れには甘い物がいいんですよ。コーヒーも甘くしてみたらどうですか?」
「んー」
あぁ、そういうことか。
でもコーヒーは微糖派だ。
甘すぎず苦すぎ無い、ちょっと甘いくらいが丁度いい。
これは人間性にも出ているようで、私は甘える人間でもなければ、冷静沈着でもない。
自己解決出来る事があればするし、出来なさそうであれば人間に頼る。
これは、ご都合主義なのだろうか。
そんな自分しかわからない意味も込めて、安室さんに聞いてみる。
「安室さんは、何派?」
「んー僕はミルク派ですかねー。甘くはなりませんが、まろやかになる」
意外な答え。
人に頼る事を知らなさそうな彼は、無糖と答えると思っていた。
失礼だから口には出さないけど。
「ミルクねぇ……」
そういう答えが出る人って、他人には気づかれない様な心理の持ち主なんだろうな。きっと世渡り上手だ。
「いいなー。私もミルク派になりたい」
「まぁ、好みは人それぞれですから。無理になるものじゃないですよ」
苦笑いをしながらも、軽い夜食に、とサンドイッチを出してくれた。
優しいなぁ安室さん。
「ありがとう!!」
目の前には美味しそうなサンドイッチ。思考が止まった代わりに、お腹の減り具合が確認できた。
その瞬間、早く食べろと言わんばかりになるお腹。
恥ずかしくてチラリと安室さんを見ると、くすくす笑われた。
「サンドイッチ、出して良かったです」
「うぅ……。い、頂きます……」
とりあえず鳴り止まないお腹の主張を止めなければと口に含む。
「おいし〜っ!さすが安室さん!」
美味しいサンドイッチにテンションが上がる。ほんとに美味しいんですよ、と伝えるために笑顔を見せた。
「喜んで貰えたなら、良かったです」
「美味しいもん!」
「……先程のコーヒーの話。ミルクと微糖を合わせたら、丁度いいんじゃないですか?」
「疲れ取れるかな?」
「取れますよ、絶対」
その笑顔に、ある意味が込められていることなど知る由もなく。
ーENDー
(砂糖とミルクかぁ。今度それ頼んでみよ)
(僕の本当の気持ちにまだまだ気づかないようで、先が思いやられます)
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