10.ひざまくら
「あんれまー!こーんなちっちゃくなっちゃって!!」
「……おばさんかよ」
私の彼氏、工藤新一が、遊園地でちっちゃくなって帰ってきた。
「はしゃぎすぎて子供に戻っちゃったのかな?」
「……普通彼女ならショック受けねー?」
私はにまにましてしまっているのだろうか。いや、顔に出ていなくとも心の中でにまにましている。
どうか変な奴だと思わないで頂きたい。
「だって可愛いんだもん!あ、ねぇ小さい子にやってみたかったことあるの!ひざまくらしてあげるよ!ほら!おいで!」
博士ん家のソファーに座って、太ももをポンポンと叩いた。
「はぁ?やだよ。だいたいにしてなんで小さい子限定なんだよ」
「じゃあ新ちゃんに戻ったらさせてくれるの?」
「うっ………」
ここから、私のひざまくらをさせよう奮闘記が始まった。
「新ちゃん、耳かきしてあげようか!」
「いらねー」
「新ちゃん!新ちゃん座るところもうないよ!だからひざまくらしてあげる!」
「この荷物よければいーだろ。てか理由になってねーし」
「新ちゃん!ひざまくら「いやいい」
「新ちゃん!ひざ「いい」
「新ちゃん!「いい!」
あれから何時間経っただろうか。
朝から言い始め、一日中新ちゃんを追いかけ回しているうちになんともう夕方だ。
「な、なかなか手強いな……」
「そりゃあこっちのセリフだバーロー!」
このやり取りを一日中見ていた哀ちゃんと博士も呆れてこっちを見ている。
「哀ちゃあん!新ちゃんノリ悪いー!」
「あなたもいい加減諦めなさい」
「やだ!!」
「名前君も新一も元気じゃのー……」
「博士、携帯鳴ってるわよ」
「おお、どれどれ……」
博士が携帯を手に席を外したあとも、新ちゃんとの言い合いが続く。
その5分後ぐらいに戻ってきた博士の顔は、少し寂しそうだった。
「新一、名前君。大変な事になったぞ」
「「え?」」
ーーーー
「なるほどね……新ちゃんが蘭の家に……」
「博士、どうにかできねーのか?名前ん家でいーだろ!」
新ちゃんは、蘭の家で預かる事になったらしい。そうだよね。私と新ちゃんは幼なじみでもなんでもない。
工藤新一の彼女ではあるけど、江戸川コナン君とはなんの関係もないんだから。
それに探偵の新ちゃんは、探偵事務所で預かることになるんだからそっちの方がいい。
「いいよ、行っておいで」
「えっ……名前……」
「一生会えなくなるわけじゃないんだし、探偵事務所だから丁度いいよ!だから、行ってきて、新ちゃん」
「………」
博士と哀ちゃんは気をきかせてくれたのか、地下室へ向かった。
「……いいのか?」
「うん……」
「……名前」
「ん?」
新ちゃんは私をソファーへ誘導すると、ん。と言って座らせた。
そして太ももの上に頭を乗せ、恥ずかしそうに目を逸らす。
「ふふ。ひざまくらだ」
「今日だけだかんな……」
「……うん♪新ちゃん、浮気しないでね」
「ばぁろ、するわけねーだろ」
“俺が好きなのは、名前だけだ”
その最後の言葉を胸に、蘭に預ける決心がついた。
ーENDー
「へぇ〜……コナン君が蘭と一緒にお風呂……良かったねー?コナン君」
「え、えと、あれは……っ」
「コナン君途中でのぼせちゃってびっくりしちゃった」
「……ねぇ蘭、新ちゃんって2人だけの時、ひざまくらしてって甘えてくるんだよ!」
「え?!あの新一が?!」
「っはぁあああ?!そんな事してねーだろっ?!」
「あれれー?なんでコナン君が知ってるの?新ちゃんと私しか知らないはずだよ?」
「なっ、あっ、いや……その……」
キッと新ちゃんを睨むと、場が悪そうにしていた。
お仕置きだこのやろう!
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