09.内緒話





「授業始めるぞー。……おい中森。黒羽はまたサボりか」

「多分そうです!もう私連れ戻すの嫌です!」

「嫌か……じゃあ名字。学級代表として探してきてくれ。いいか?」

「わ、私ですか……はい……」


学級代表はすぐ何にでも借り出されるから嫌だ。しかも黒羽君は苦手だ。
あまり喋らず、空気の様な存在でいたい私と、クラスのムードメーカー的存在な黒羽君。あまりにも対照的過ぎる。
嫌いってわけじゃないけど、話が合わなさそう。


「どこから探そう……」


確か青子ちゃんはいつも保健室に迎えに行ってた。と思い保健室へ来たが、いない。どこだろう。

ため息をつきながら足取り重く屋上へ行ってみると、貯水タンクの上で寝そべっている黒羽君を発見。


「黒羽君、見つけましたよ。教室へ戻りましょう」

「うぇ?!名前?!」

「青子ちゃんじゃなくてすみませんね」

「いや……よくここにいるってわかったな」

「以前黒羽君は空を見るのが好きと聞いた事があるのでここかと」

「さすが。今日はすげー天気いいからさ」


確かに、今日は凄く天気がいい。
いや寧ろ暑すぎやしませんか。


「まぁ、そうですけど、戻りますよ」

「もうちょいいいじゃんっ」

「じゃあ私は先に、きゃっ!?」


踵を返した瞬間、後ろから腕を引っ張られ、片腕で後ろから抱き締められる状況となった。


「だぁめ。名前ちゃんも一緒に」

「な、な……っ!」


後ろから耳元で囁かれ、ドキドキと心臓がうるさい。

強く当たる日差しと初めて感じた心臓の動きに目眩を起こし、頭がくらくらとして全身の力が抜けた。


「わっ!名前?!」


焦った顔の黒羽君を最後に、意識が途切れた。


ーーーー


おでこにひんやりとした温度を感じ、目を開けると、保健室の天井が見えた。


「お、目覚ましたか?」

「くっ、黒羽君?!」


横に座っていた黒羽君に驚いて上半身を起こすと、目の奥がズキンと痛む。


「うっ……」

「まだ寝てろって。熱射病とかじゃねーみてーだし、どうした?疲れてんのか?」

「黒羽君があんな事するからです……!」

「あ、あぁ。わりぃ……。でも、意識してくれたってこと?」

「えっ……」


ニコッと笑って質問してくる黒羽君に、またドキリと心臓が鳴る。


「ち、違います……!」

「なーんだ。あ、それとさ、屋上に行ったのは、2人だけの秘密な♪」

「2人だけの秘密……?」

「そ、ひみつー」


口に指を当てウインクする黒羽君。
2人だけの秘密は、なんだか嬉しかった。


「おいこらー。健全な男女が個室に篭って何やってんだ出てこーい」

「っ?!」

「お、先生戻ってきたっぽいな。なんもしてねーよー!内緒話はしてたけどー!!」

「怪しいなー。黒羽は教室戻れよー」

「へーい!!……じゃ、名前ちゃん。早く戻って来いな♪」

「う、うん……。あの……ありがとう」

「どってことねーって。2人の秘密作れたから、嬉しいぜ?じゃあな♪」


2人の内緒話。
秘密にする事でもないんだろうけど、凄く嬉しい。守りたくなる。
それは黒羽君との内緒話だからだろうと気づくのは、もう近いはず。


ーENDー

「あ、快斗やっと戻ってきたー!もうお昼休みだよ?」

「おー」

「さっき保健の先生教室に来たんだけど、名前ちゃん大丈夫そう?」

「あぁ。熱射病とかじゃねーみてーだし」

「熱射病?保健室にいたのに?」

「ん?……まぁな」

「あー、青子に嘘ついてるでしょ?ほんとは2人でどこにいたのー?」

「内緒ー!誰にも邪魔されたくねーもん」

「あ、わかったー!快斗、名前ちゃん好きなんでしょー?」

「……うし、購買行ってこよ!」

「あ!ちょっとー!!」




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