07.はちみつ
「ありがとう、名前。わざわざ」
「いいの。零君が風邪だなんて、珍しいね」
風邪を引いたと連絡を受け、零君の家にご飯を作りに来た。
材料も買って、冷蔵庫にそれを入れる。
「名前、泊まって行きなよ」
「えっ?!でも風邪だし、迷惑じゃ……」
「彼女が来てるのに迷惑だなんて、思わないよ」
「でも……泊まる用意、してないよ」
「そんなのいらないでしょ」
ベッドで上半身を起こしている彼が、にこりと笑った。
風邪引いてる時って、1人でいたくならない?
なんて思いながらも1日一緒にいれるのは嬉しい訳で。
断る理由もないからOKを出した。
「零君、何食べたい?」
「ホットケーキかな」
「だよね。……え?ホットケーキ?」
こういう時って、普通お粥じゃないのか?100%お粥と答えると思って、梅干しとかちょっとしたおかずの材料しか買っていなかった。
ここでまさかのホットケーキですか。
零君チョイスおかしいよ。
「お粥じゃなくて……?」
「いつもの名前が作るホットケーキが食べたい」
確かに、零君は私が作るホットケーキが好きだといつも言ってくれている。
まぁ病人が必ずお粥を食べなきゃいけないわけじゃないし、いっか。
「材料あるの?」
「あるよ」
いつもの場所から材料を取り出し、早速ホットケーキを作った。
「できたよ〜」
「ありがとう、今行く」
えーっとメープルシロップメープルシロップ……。
あれ、ない!!
「零君!メープルシロップないよ!」
「じゃあはちみつにしよう」
あぁなるほど、とはちみつを用意して、早速2人でいただきます。
「やっぱりおいしい」
「誰が作っても同じだよ、ホットケーキなんて」
「そんな事ないよ、焼き加減とかさ」
なんかこういう時間が幸せだなぁ。なんて思った。零君が風邪ひいてなければ尚良かったのだけど。
「あ、そうだ。喉にははちみつがいいらしいから、ちょうどよかったね」
「あぁ、みたいだね。じゃあ貰おうかな」
「え、もうホットケーキに、んっ!」
かかってるよ?
って言おうと思ったのに。
それは零君が私の口端を舐める事によって、止められた。
「れ、零くん……?!」
「貰ったよ、本当に効きそう」
くすくすと笑った顔は穏やかなのに、どこか意地悪に聞こえた。
「は、はちみつ直接口にすればいいでしょ……っ!」
恥ずかしくて俯くと、手で顎を上げられた。
「ちょうど良く名前の口についてたし、こっちの方が効くかな、ってさ」
そのままキスをされ、口内は甘ったるい味が混ざり合う。
「んっ……んんっ!」
息苦しくて、零くんの胸をとんとん叩いた。
ようやく口を離されても、口内はまだ甘い味が残る。
「れ、零くんのばかぁ!!」
「今日で風邪とはさよならだな」
久しぶりのはちみつは、体ごと溶けてしまいそうな程に甘かった。
ーENDー
次の日
「零くん……風邪引いたかも……」
「俺は治ったよ。今度は俺がホットケーキ作ろうか?」
「い、いらないっ!!」
「可愛いなぁ」
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