05.不意打ち
「名前さん♪」
「……いらっしゃいませ。こちらの席へどうぞ」
「相変わらず冷めてーなー」
「ご注文はお決まりですか?」
「え?そりゃーもー名前さ「ブラックコーヒーですねかしこまりました」
「嘘嘘!!俺ブラック飲めないの知ってんだろーっ?!」
「……はぁ。ココアですね」
「さっすが名前さん♪」
この高校生のやんちゃボーイは黒羽快斗君。私が働いているこのカフェに何回か来るうちに仲良くなった。
いや、仲良くなったというより、懐かれている。
正直5歳も年下だと、弟としか思えない。まぁ、弟にも思っていないが。
「はいどーぞ」
「名前さん、今日何時上がり?」
一緒に帰ろうとか言われそう……。
「え、えっと……その日によって違うからわかんないなー……」
「嘘つき」
うっ……。
その笑顔で言われると、物凄く怖い。
「19時……」
「一緒に晩飯食いに行こー?」
「嫌です」
「むぅ。店長に言っちゃおうかなー。名前さんが常連に態度悪いって」
「ナンパされてるって言うし」
「常連だと信じて貰えないと思うけど?そんな事言っても。しかもこれはナンパじゃなくてお誘い♪」
なんてやつだ!!
くそぅ。馬鹿にされてる……
「わ、わかった……待ってて」
「やったー!」
正直帰っててくれ。
ーーーー
「お疲れ様でしたー」
仕事が終わり、黒羽君と共に外へ出た。
本当に待っててくれたのか。
「ひ〜っ!さみ〜!」
「そりゃそんな格好だったら寒いでしょ。なんでマフラーも何も巻いてないの」
ばかだなぁ、と思いながら、私の巻いていたマフラーを彼に巻いた。
「はい、OK!さっさとどっかの店入ろ」
「……なー俺名前さんのそういう所好き」
「……はっ?!もーそういうのいいから早く行こう!」
横に並ぶ彼の顔をちらりと見ると、ニコニコしながらマフラーに顔を埋めている。さっきの好きはどうやら本気ではないらしい。
「なぁ、名前さん寒くねーの?」
「寒いよ!だからさっさとどっか入ろって言ってんじゃん!」
「あ、ちょっとあそこの公園のベンチで話そうぜ!」
「人の話聞いてた?!」
まったく、聞いといて無視かよ。
なんて思っていたらいつの間にか流れでベンチに座ってしまった。
「名前さん」
「なに、んっ?!」
え、キス……?
2回ほど角度を変えて繰り返されたキスが離れ、互いの白い息が1つとなって散った。
「な、ななな……」
「名前さんの不意打ちの優しさにいつも心臓やられるから、やり返してやろうと思って」
「なっ、知らないよそんなの……!なんでキ、キスなのさっ」
「俺が本気で好きなの、わかって貰おうと思ってさ」
「へ……?」
その不意打ちのキスで、私はどうかしてしまったのかもしれない。
いや、気づかなかっただけなのかもしれない。もう寒さなんて忘れ、寧ろ暑くて。
私の態度を肯定と捉えた彼に、もう、それでいいよと答えたのは自然だった。
ーENDー
「名前さーん♪」
「今日もブラックコーヒーですね」
「まだ何も言ってない!!」
「ふふ。今日も待っててくれる?」
「……その笑顔、ずりーってば……」
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