01.鼓動
教室のドアを開けると、快斗君がいた。
それは、私の好きな人。
「名前……」
でもお互いに気まづくて。
誰を、何を待っていたのか、頬杖をついて夕日を見ていた快斗君は、私に気付き名前を呼んだ。
気まづくなったのは、昨日の放課後の出来事だった。
放課後居残りだった私は、やっと帰れると足取り軽く自身の教室に足を踏み入れようとした。
「もー!バ快斗っ!!」
「あははっ。アホ子のせーじゃねぇか」
楽しそうな会話が聞こえてこっそり覗くと、青子ちゃんと快斗君が楽しそうに会話をしていた。
嫌な鼓動が、私の心臓に鳴り響く。
あぁ、やっぱり私じゃだめなんだ。って思って、教室のドアに寄りかかって涙を流した。
この時に気づかれたのかな。
2人がいなくなってから教室に入ろうと足を進めたその時、誰かが私の腕を掴んだ。振り返ればそれは快斗君で、悲しそうにどうしたの?と聞いてきた。
今思えば、快斗君は私の気持ちをもう知っていたのかもしれない。
「関係ないでしょ、離してよ」
「関係ねーなら話聞かせてよ」
そんなの、快斗君に話せる訳が無い。
話したところでどうにもならないから。
「おいっ……!」
思いっきり腕を振り払って、走って女子トイレに逃げた。
これが昨日の放課後で、まさか昨日の今日でまた放課後に快斗君が残っているなんて思ってなくて、教室に入ったところで足が竦む。
どうせ青子ちゃんでも待っているのだろう。自分に損な事は、わざわざ聞かない。
そう思って、踵を返し教室を出ようとすると、ドアにバンっと衝撃が走った。
びっくりして上を見れば、ドアの高い位置にある手。
私の中の小さな小さな勇気を振り絞って、抵抗した。
その小さな勇気は、私が快斗君の顔を見て、睨みつけること。
「な、なに」
「何じゃないだろ?」
「昨日の事?本当に関係ないよ、快斗君には」
「じゃあなんで逃げた?なんで今日も逃げる?」
「………」
何も言えなかった。
だって、快斗君の事だから。
「名前を待ってた」
「なんで……そんなに聞きたいの?」
「別に、今日はそんなんじゃねぇ」
「え……」
「俺は……」
そこで途切れ、快斗君の顔が私に近づいてきた。何故か怖くて、目をギュッと瞑る。
「俺は……名前が好きなのに」
「っ!!」
耳元で甘く響いたその言葉を疑った。
でも、疑う要素なんてない。
だって、ここには私と快斗君しかいなくて、快斗君は私の耳元で、私の名前を言って、好きと告白してくれた。
バクバクとうるさい鼓動。
その言葉に、涙が溢れる。
「本当……?」
「本当の本当に♪」
耳元から離れた快斗君の顔を見れば、真っ赤になって微笑んでいた。
嬉しくて、私もだよ。と返事をすれば、どちらともなくギュッと抱きしめ合う。
お互いの甘い鼓動が、一つになった瞬間だった。
ーENDー
「いやまさか青子と話してただけであんなに悲しそうにしてたなんて」
「だっ、だって……」
「かーわいー♪もー名前ちゃん大好き!!」
「わわわ私もだけどやめてよその話……!!」
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