05
「えっ……?」
やべ、口に出ちゃった。
瞬間、名前ちゃんの笑顔が曇る。
顔は赤いままだが目をそらされ、また不機嫌な顔に戻った。
やっちまったかも。
「私は嫌い。黒羽君のこと」
「えぇっ?!」
知ってたけど直接言われるとは……
またまたショック!って……ん……?
「……名前ちゃん、俺の目見て言って。それ」
「は?Mなわけ?いいけど。私は黒羽君が嫌い。」
俺の目を見て真剣に、睨みつけるように嫌いと言ってきた。
その目に、いちかばちか賭けてみよう。
「ちょ、黒羽君?!やめてよ!最低!」
座っていた名前ちゃんをそのままベッドに押し倒し、両手を頭の横に置いた。
「な、なに?!男として最低だよ?!よけてよ!」
「…………」
「黙らないでよ!聞いてるの?!」
「そんなに俺の事嫌い?そんなに嫌いならさ、蹴飛ばしてでも、殴ってでも、ビンタしてでも避けてみろよ」
「……っ」
「そんな揺れた目で嫌いなんて言われても、信じられない」
「!!!」
「本能で嫌って感じるなら、行動で表して。逃げていいよ。……もう、追わねーからさ」
無理やり笑顔を作れば、小さい声で何かを言い出した。
消えゆくようなその声に、泣きそうなんだと理解する。
思い返せば、酷いことをしたんだ、俺。
「……ごめん、名前ちゃん。怖かったよな」
体を起こそうとすれば、首に腕を回され、ギュッと抱きしめられた。
「えっ?!名前ちゃんっ?!」
「やだ……っ」
「……え?」
「逃げない……黒羽君からも、自分からも」
その時、泣くのを我慢しながらようやく口にしてくれた言葉。
その言葉に、不甲斐なさを感じた。
“自分からも”
それはきっと、理由があって俺を避けてた。きっと、辛い理由があったんだ。
それなのに俺は名前ちゃんの辛さも知らずに好き好きと突っ走り、呑気に後を追ってぐいぐいと攻めていた。
運動ができても、
頭がよくても、
女の子に対する対応を知っていても、
好きな人の気持ちに気づけない様じゃ、彼氏になれるはずもない。
「……逃げてた理由、話してくれるか?」
「……黒羽君と話すたんびに、黒羽君ファンの子達から怒られる。」
「……はっ?!まじで?」
「いじめとかまでは行かないんだよ?でも影でこそこそ言われてたりするのが辛くなってきた。最初は気にしない気にしないって思ってたんだけどね、いつまでも変わらない状況に、私は黒羽君のものでもないのになんでずっと言われなきゃいけないんだろうって。」
……まじかよ。
ほんと女子ってこえーわ。
名前ちゃん以外にファンとかいらねーし。
「なんで俺に言わなかった?」
「……それは……」
「それは?」
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