03





「肩、どうですか?」

「お陰様で不便よ」

「………」


ちょっと嫌味すぎたかな。
でも、言いたい事は言わせて貰う。


「私の後輩が、ごめん。でも警察は逃がすまいと必死になる。だから拳銃を向けたんだと思う。あなたみたく、冷静な人ばかりじゃないし、優しい人ばかりじゃない。それはわかるよね?」


優しく問いかければ、何も言わずこくんと頷く。


「今回は私の肩で良かったけど、あなたが撃たれてたら………」


撃たれてたら、なんなのだろう。
キッドのことをなんとも思っていないなら、撃たれたキッドを捕まえて、後輩を叱ればいい話。

何故、こんなにも泣きそうになるのだろうか。

何故、こんなにも優しい彼が思い浮かぶのだろう。


「……名前嬢?」

「撃たれたら……不安になるからやめて…」


あぁ、泣いてしまった。
いつの間に、こんなに彼に惹き付けられていたんだろう。


「……撃たれてあなたを惹き付ける事ができるなら、本望ですよ」

「……ばか。不安にしかならないよ」

「私の心ならもうとっくに捕まえてるじゃないですか。体は勘弁して欲しいですが」

「ほんとキザ。……でも、私は警察であなたは怪盗。付き合ったりはできない。」

「……じゃあさ」


いきなり敬語が抜けた事に驚きキッドを見ると、ハットを取り、モノクルをテーブルに投げ置いた。

初めて見る素顔はあまりにも純粋で幼く、とても怪盗紳士には見えない。

こんな純粋そうな子を捕まえようとしているなんて、何故かこっちが罪悪感に見舞われる。


「……若っ……」

「それ言われたら今から言おうとしてる事言いづらくなんだろーっ?!」

「そんなの知らないわよ!!」


直後、ポンっと軽い音と共に白い煙が上がった。


「ちょっ…!撒くつもり?!」


逃がすまいと覆いかぶさると、思いのほか近くにいた彼をソファーに押し倒す様な形になってしまい、煙が晴れると顔に熱が集まった。


「逃げねーって。大胆だなー名前ちゃん」


両手を小さく上げ苦笑いする彼からパッと離れ、改めてその姿を見る。


「えっ……」


制服……?!
学生だったの?!


「怪盗キッド改め、江古田高校二年生、黒羽快斗。よろしく」


ニッと笑った彼に唖然とする。


「正体ばらしちゃっていいの……?」

「現行犯逮捕するつもりの名前ちゃんには寧ろばらした方がいいんじゃねー?」


うっ。
それもそうだ……。


「怪盗とは付き合わなくていいからさ、黒羽快斗として付き合ってくれない?好きなんだよ、名前がさ」


そうきたか。
ずるいなぁ。ほんとに。


「だってまだ高校生でしょ?嫌だ」

「歳なんて関係ねーじゃーん!!なぁーキッドじゃねーじゃん今はー!なんでだめなのなんでなんでなんでー!」

「あーうるさいなぁ!」


何回も同じことを繰り返すうるさい彼。
あれ、なんだろう怪盗キッドが錯覚に思えてきた。


「わかった!!私も好きだから……つっ、付き合う!!でも、もうキッドとして会いに来ないで!キッドとして会う時は、私が警察として出動してる時だけよ」

「やったー!!名前ちゃん大好き!!」

「聞いてんのかいっ!!」


ぎゅっと抱き着いて来た彼を無理やり剥がし、まるで犬が尻尾でも振っているかのように喜ぶ快斗に、キッドはどこへ行ったのやらと溜息が漏れる。

でも私の口元は明らかに口角が上がっていて。

法律に少し背く形も、少し面白いかもな、なんて思った。


「名前ちゃん大好きーっ!!」

「わかった私もだからあんま抱き着かないで肩痛いぃいいっ!!」



あのキザな君はどこへ………



ーENDー


「じゃあね」

「次は黒羽快斗としてくるよ」

「うん」


キッドの姿に戻り、柵に片足をかけた背中に片腕で抱きついた。


「名前……」

「快斗……」

「ほんと、可愛いんだか「もしもし中森警部ですか?泥棒つかまえました!!」

「おいぃいいっ?!?!」


なーんて、うっそぴょーん♪



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