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「こんばんは、名前嬢」

「あら、警察のベランダによくノコノコと来れるわね」

「名前嬢ですから」

「答えになってないわよ」


ある日から、警察だと知っていながら警戒心もなくやってくる白い鳥。
いつか捕まるわよ?
怪盗キッド。


「貴女は私を捕まえる気がない。私が好きだから、ですよね?」

「ざんねーん。それは違うわね。貴方みたいな人を捕まえるために警察になったのよ?でも今日は予告状か何かを出しに行った帰りの様だし、あいにく私は今日お休みなの。」

「それでも私を捕まえる事は出来る」

「現行犯逮捕がしたいのよ」


フッと笑うと、彼はハットを深く被り目を逸らした。

少し幼げな顔。
私より年下なのは確実。
そんな人に恋をするなんて、ありえない。

私は、こういう人を捕まえるために警察になった。


「貴方に邪魔をされたくない」

「邪魔などしていませんよ」

「独り言よ。もう帰ったら?」

「相変わらず冷たい御方だ」

「迷惑なのよ」

「貴女に迷惑はかけられませんね。では、今日は帰るとしましょう」


今日は?


「また来るの?」

「来て欲しいようですね」

「欲しくない」

「顔に書いてありますよ」

「冗談やめて。ばいばい」


彼だけを残し、一人ベランダから中へ入り窓を閉めた。

カーテンも閉めてしまえばいいのに、何故かそれはできなくて。

キッドは柵に足をかけ、そのまま飛び去って行った。


それを横目で見送った私は、既に冷めたコーヒーをシンクに流し、寝室へ向かう。

きっと明日、キッド逮捕に向けて出動になる。

いつもならやる気満々だが、何故か最近ぐるぐるとした気持ちになる。

もし、彼を捕らえたら。
捕らわれた彼は、どんな顔をするだろう。

私を恨み、きつく睨むのだろうか。
それともあのポーカーフェイスで、なんてことなく牢屋に閉じこもるのだろうか。
いつも盗んでは返す、ファンに、私に優しい彼は、そんなにも罪深いのだろうか。


ただただ法律に従い生きてきた私に、羽根を生やそうとしてくれているのでは…


「いや、法律は従わなきゃいけないものだし、彼はそんな事思ってない」


自分に言い聞かせるように声に出し、布団に潜り込んだ。

ーーーー


「追い詰めたぞキッドめぇ……はっはっはっ!!向こうにはヘリがネットを張って待っている……こっちは警察が待っている……なーっはっはっ!!」

「……中森警部、笑いすぎです……」


はぁ。
全くこの人は……。


昨日の予想通り、今日キッドはここへ盗みに来た。
屋上に追い詰めた私達警察。
端ぎりぎりに立つキッドの奥には、ヘリがネットを張っている。
勿論下にもネット。


もう、逃げられない。




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