01
「こんばんは、名前嬢」
「あら、警察のベランダによくノコノコと来れるわね」
「名前嬢ですから」
「答えになってないわよ」
ある日から、警察だと知っていながら警戒心もなくやってくる白い鳥。
いつか捕まるわよ?
怪盗キッド。
「貴女は私を捕まえる気がない。私が好きだから、ですよね?」
「ざんねーん。それは違うわね。貴方みたいな人を捕まえるために警察になったのよ?でも今日は予告状か何かを出しに行った帰りの様だし、あいにく私は今日お休みなの。」
「それでも私を捕まえる事は出来る」
「現行犯逮捕がしたいのよ」
フッと笑うと、彼はハットを深く被り目を逸らした。
少し幼げな顔。
私より年下なのは確実。
そんな人に恋をするなんて、ありえない。
私は、こういう人を捕まえるために警察になった。
「貴方に邪魔をされたくない」
「邪魔などしていませんよ」
「独り言よ。もう帰ったら?」
「相変わらず冷たい御方だ」
「迷惑なのよ」
「貴女に迷惑はかけられませんね。では、今日は帰るとしましょう」
今日は?
「また来るの?」
「来て欲しいようですね」
「欲しくない」
「顔に書いてありますよ」
「冗談やめて。ばいばい」
彼だけを残し、一人ベランダから中へ入り窓を閉めた。
カーテンも閉めてしまえばいいのに、何故かそれはできなくて。
キッドは柵に足をかけ、そのまま飛び去って行った。
それを横目で見送った私は、既に冷めたコーヒーをシンクに流し、寝室へ向かう。
きっと明日、キッド逮捕に向けて出動になる。
いつもならやる気満々だが、何故か最近ぐるぐるとした気持ちになる。
もし、彼を捕らえたら。
捕らわれた彼は、どんな顔をするだろう。
私を恨み、きつく睨むのだろうか。
それともあのポーカーフェイスで、なんてことなく牢屋に閉じこもるのだろうか。
いつも盗んでは返す、ファンに、私に優しい彼は、そんなにも罪深いのだろうか。
ただただ法律に従い生きてきた私に、羽根を生やそうとしてくれているのでは…
「いや、法律は従わなきゃいけないものだし、彼はそんな事思ってない」
自分に言い聞かせるように声に出し、布団に潜り込んだ。
ーーーー
「追い詰めたぞキッドめぇ……はっはっはっ!!向こうにはヘリがネットを張って待っている……こっちは警察が待っている……なーっはっはっ!!」
「……中森警部、笑いすぎです……」
はぁ。
全くこの人は……。
昨日の予想通り、今日キッドはここへ盗みに来た。
屋上に追い詰めた私達警察。
端ぎりぎりに立つキッドの奥には、ヘリがネットを張っている。
勿論下にもネット。
もう、逃げられない。
prev|
next