02
そっとドアを開け、貯水タンクの上を確認すると寝そべって空を見上げている黒羽を発見。
そんな呑気にしていられるのも今の内だ
そーっとそーっと階段を登り、黒羽の頭の手前で仁王立ちした。
「ん、パンツ見えるぞ青子……ってスカートじゃねぇ……先生?!」
勢いよく上半身を起こし振り替える黒羽を逃しはしない。
「捕まえた!!」
「なっ?!ちょ、ばっ…!!」
逃がすまいと黒羽にがしっとしがみつき、どうだと顔を見ると、真っ赤な顔で口元に手の甲を当てている。
「なに照れてんだ?」
「て、照れてねぇっ……!」
「中森だったら鼻血出してたんじゃないのか?」
笑ってやると、はぁ?と言われた。
まったく教師に向かって。
「中森じゃなくて悪かったな」
「中森だったら突き飛ばしてるわ!」
「あれ?黒羽、中森って呼んでたっけ?何そんな動揺してんだよ」
「!!あ〜っうっせー!!」
「教師にうっせーって言うな!」
そんなやりとりをしつつ、素直に教室に着いてくる黒羽。
2枚のプリントを机にバンっと置くと、やればいーんだろ?とかブツブツ言いながら自然と真顔に戻っていった。
その顔を見ながら、先ほどの黒羽を思い出す。
「……なぁ黒羽」
「なんだい先生」
目も合わさず、問題を解きながら返事をする黒羽。そうそう。それでいい。
「なんで中森に告白しない?」
その瞬間ピタッと手を止め、私を見るなりまた“はぁ?”と言って視線を戻した。
「さっきの反応、好きなんだろ?中森のこと。」
「別に好きじゃねーけど」
「うっそだー!」
「うるせーな今問題解いてんだよ邪魔すんな!!だいたいしにてなんで日本人が現文なんてやらなきゃいけねーんだよ意味わかんねーし将来に使えんのかこれ。まぁ青子には必要かもしんねーけどさ?別に好きじゃねーからどうでもいいけど。さっきのだって(以下略」
おいおい中森の話と現文の話がごちゃごちゃになってるぞ。
未だブツブツ言いながら目で問題と教科書を何度も照らし合わせている様子。
お、珍しくわかんないのかな?
「なんだわかんないのか?そこ」
「今考えてんだよ!」
私も黒羽の隣に周り、問題を読む。
「A君がBさんといた理由を説明文から15文字以内で抜き出しなさい」
「そんなの知らねーしー」
「こら、ちゃんと説明文見ればわかるだろ?」
「快斗君が名前さんといる理由ならわかるけどよー。いつも俺を追いかけ回していじめてくるうえにこんな変なプリントさせてさー、俺はそれが楽しくていつも適当な答え書いてさー、」
「こら15文字以内って言ってるだろ。しかもこれは黒羽と私の問題じゃない!」
「だーかーらー、つまりー」
「……つまり?」
はぁ、と深くため息をつき、シャープを置いて背もたれに項垂れながら私を見上げた。その手は両方ともパーをしていて。
こいつはほんとによくわからない。
「こらちゃんと背筋伸ばせ」
それでも可愛い生徒の1人。
優しく頭にぽん、と手を置くと、条件反射で一瞬目を閉じ開いた目は、優しい目をしていた。
すると指折り数え始め、それに合わせ言葉を発した。
「せ、ん、せ、い、が、す、き、だ、か、ら、つ、き、あ、っ、て」
「……はっ?!」
今こいつなんて言った?!
「だから、先生が好きだから付き合って。ほら、15文字以内。てかぴったりー」
ニカニカ笑いながらグーをした両手を私に見せて来た。
ようやく頭の中で理解し、顔に熱が集まる。
「……あほ……」
「えー?!なんで?!」
15文字以内で答えて!と言われたが、今の感情を15文字以内で答えるのは、難しそうだ。
ーENDー
「……快斗、今日捕まったら告白するかなーとか言ってたな。そろそろ先生に告白し終わったよね?どうなったかメールしてみよ!」
どうなった?とだけメールすると、すぐに返事が返ってきた。
『俺すぐ卒業したいんだけどどうしたらいい?!』
「あはは、“とりあえずは”振られたって感じか。でしょうね、教師と生徒だもの」
なんだか暖かい気持ちになって、暖かいコーヒーを飲みながらも微笑みが止まらなかった。
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