03-3
「快斗、覗かないでね?」
「覗くかよバーローっ…!」
「…ここで脱がないよ?」
ふふっと笑うと、今更恥ずかしくてこっちを向けないのであろう、背中を向けたまま、一応だ一応!と言って俯いた。
「別に快斗ならいいのに…なんてね♪」
「…はっ?!」
「別にここで着替えないし、こっち向けばいいのにってこと♪じゃあシャワー浴びてくるねー!」
快斗の背中にひらっと手を振り、シャワールーへ向かう。
「意地悪言ってごめんね♪」
なんて快斗には聞こえていないだろう。
「ったくドキドキさせやがって…あーやっぱ振り返りゃ良かったー雨に濡れた名前の制服なんてレアじゃん…」
ーーーー
「ふぅ。あがったよー快斗」
「おう」
「お腹すいたね…なんか食べていく?」
「いや、わりぃよ」
「いーから食べて行きなよー♪」
「…んじゃ、お言葉に甘えて」
こうして2人で狭いキッチンに並び、快斗は手伝いをしてくれている。
「…なぁ名前、おめー…両親は?」
「私はおじいちゃんと引っ越してきたから、両親は前の家に住んでるよ。もともと1人暮しだったから、私だけきた。おじいちゃんは心配でついてきてくれたの」
「そうか。なんで引っ越してきたんだ?両親をおいて」
「両親と会える距離にいるのが嫌だったの。あんまり両親好きじゃないし、独り立ちしたくて…」
「そうか。」
「はい、できたよ♪あっちに運ぼ♪」
「おう!」
何かがおかしかった。
両親の話…
怪しいが微妙に辻褄が合っている。
まず、この間俺が盗もうとしていたビクスバイト。
前日までは本物だったのに、盗む直前に偽物に変わっていた。
もし名前の話が嘘じゃなければ、名前は初登校日前にはこっちについていて、両親と美術館に行って、本物を買った事になる。
でも、独り立ちしたいのになぜ両親と一緒にこっちに来た?
会える距離にいたくないと言っていたのに。
でも両親は名前に凄く愛情を持っていて、1人でこっちにはこさせたくない、でも名前が嫌と言うなら…そう言って初日だけついてきたとすれば、別に変な話ではない。
こっちに隠れてるのか?
でも、部屋の広さや生活感を見てみる限り、ほんとに両親はいないようだ。
この県の中に住んでるのか?
それもこれといった証拠がない。
ビクスバイトを買った金持ちだから、調べて出てこねぇはずがないんだが…。
そこだけが疑えるな。
怪しい話に聞こえるが、いくらでも答えがある以上、疑えない。
この間じーちゃんに名前のことを調べてもらったが、たいして情報は出てこない。
何かが怪しい…
もう少し調べてみっか…。
快斗を見ると、何処か考え事をしている様。きっと、私の事でしょう?
「…快斗?どうしたの?ぼーっとして」
「ん?あぁわり、考え事してた」
「…そう。ご飯、おいし?」
「おお!んめーよ!」
「よかった♪ま、2人でご飯作ったんだけどね!」
2人でいろんな話をした。
青子とは付き合ってないの?とか
快斗のお母さんの話、
好きな食べ物の話、
普通の高校生同士の何気ない会話。
そんな中、伊武が帰ってきた。
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