月夜の光
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なによ快斗のやつ…

用事があるなんて彼女の私を置いて
急いで帰っちゃって。



放課後、1人バスに揺られ窓の外を覗く

すぐ暗くなるこの時期、早く家に帰りたいと自分の部屋を思い浮かべる。

それはいつもの光景

いつものベッド
いつもの棚

夜になると、月夜の光が真っ直ぐに射す、いつものテーブル。

産まれてからずっとこの部屋で過ごしてきたが、テーブルの位置だけは変えていない。




約8年前、幼かった私の所へ毎晩の様に来て、童話を語り、「お嬢さんと同じ歳の息子がいてね…」と息子を語り、私を娘の様に可愛がってくれた怪盗さん。

幼いながら、恋をしていた。
幼い時の恋なんて、たかが知れているが。

毎晩来てくれるのが嬉しくて、いつも楽しみにしていた。


家族で夜遅くまで出掛け、怪盗さんと会う時間を過ぎてしまったある日。


いないとわかりつつも急いで部屋に戻ると、月夜の光に反射した、テーブルの上の白いカード。





明日もカーテンを開けてお待ち下さい。
いつもの様に、あなたの元へ参ります。


怪盗キッド





その文に、笑みが溢れた。

待ち遠しいと胸を躍らせ、まだまだ長い先の明日を待つーーー。









「……なんで……」


次の日、彼は来なかった
その日からずっと



彼が私の前に姿を表すことも、白いカードを置いていくこともなく、8年が過ぎた。






「ふぅ」


自分の部屋へ帰って来た私は、腕の脱力と共に荷物を床へ置き、月夜の光が射すテーブルの上を見た。

8年前から変わらない、いつもの癖。


「……えっ……?」


いつもと変わらない落胆が来るはずだった。

でも、今テーブルにあるのは、反射した白いカード。


震える全身
出ない声

恐怖とは違う、驚愕の域を越した脳内

走馬灯が起きる頭の中を必死に整理して、1歩1歩テーブルに近づき、震える手でカードを取った。




今宵はカーテンを開けてお待ち下さい。
あなたの元へ参ります。

“8年前の様に”


怪盗キッド



「う……そ……っ」


ドクンドクンと脈打つ全身
目頭が熱く、溢れる涙

溢れる感情を押し殺せなかったせいか、喉が詰まるように痛い。


泣いている場合じゃない!
カーテンを開けなきゃ!


8年間、淡い期待を持って半分だけ開けていたカーテンを、全て開けた。


レースごと端に追いやり、少しでも閉まってしまわないよう、しっかり留める。

羽を休めやすい様に窓の鍵を開けて、窓も全開にして。


入ってくる冷たい風が身にしみる。
こんなに、心地よかったっけ……


少しでも長居してもらうよう、走って一階にお茶を取りに行った。

親に何か言われたが、そんな事を聞いている間も惜しい。

走って部屋に戻ると、目の前にはあの白いマントを靡かせた彼が、不敵な笑みをして立っていた。


「こんばんは、名前さん。お久しぶりと言うべきでしょうか、初めましてと言うべきでしょうか」


その返答も忘れ、お茶をテーブルに置いた私は広くもない部屋を走って彼に抱き着いた。


「おかえりなさっ…ぅぅっ…」


溢れる涙が私の言葉を遮る

少し若返った彼は、あの怪盗さんが喋っていた息子なんだと、瞬時に理解した。


それでも、来てくれた事が何よりも嬉しい

その思いに腕の力が強まると、彼も優しく抱き返してくれた。


「ながらくお待たせ致しました…今宵はどんなお話をご所望ですか?名前さん」


今日は、あなたの話が聞きたいな。



ーENDー


「私は、あなたに恋をしているようだ」

「さっき会ったばかりでしょ。ふふ」

「それはどうでしょう……?」


まさか親父が残していたメッセージが、俺の彼女の名前ちゃんとは……

昔の親父に嫉妬するぜ…ったく。



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