4.唇に触れる
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それは、突然の事だった。


「えっ……キッド……?」

「そうですよ。こんばんは、お嬢さん」

「どうしてベランダに………」

「羽休めにお邪魔させて頂きました」


そうなんだ、なんて言ったけど、ついさっきまでテレビに映っていた人物が私の目の前にいるのが信じられなくて、ドキドキと胸を鳴らす。

それは警察に追われている身の人がここにいるからではなく、大好きな怪盗キッドがここにいるから。


「あの……そこじゃ寒いから、羽休めなら中入りますか…?」

「お気遣いありがとうございます。ただ、中へ入ってしまうと羽休めを出来そうにないので、その優しさだけを有難く頂戴致しますね」


そっか、中へ入ったら通報されるかもしれないしね。やんわり断ってくれたんだ。
ほんとに紳士だなぁ。


「あの、通報とかしないよ…?」

「今宵は満月です。怪盗キッドが現れる日でもあり、男が狼になる日でもある……。私の狼姿、ご覧になりますか?」


そこまで言われてようやく言葉を理解した。その瞬間、かぁっと顔に熱が集まり、それを冷ます様にほっぺに両手を当てた。


「私も、所詮男ですよ」


困った様に微笑む彼に、またドキリと心臓が鳴る。ほんと、心臓に悪いなぁ。


「そ、そんなつもりじゃなかったんだけど……っごめんなさいっ」

「謝る必要はありませんよ。さて、それでは。名前嬢」


彼は耳元で私の名前を囁いた。

どうして、私の名前を……?
そう聞こうと思った時には、彼の人差し指は私の唇に触れていた。


「お話の続きは、次の逢瀬に……」


彼がウインクした瞬間、ポンっと煙が舞い、晴れた頃には彼の姿は跡形もなく。

また逢えます様にと、星に願った。


(また逢う約束ができたから、逢いに行きますね)




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