06
「助けてあげたと言うのに、恩を仇で返すのですか?名探偵………」
「助けを求めた覚えはねぇ。名前から離れろ」
みんなガスマスクを外しながら会話をしているが、私の言葉は無視。
私の話をしているくせに、私の喋った言葉は無視ですか。
私は空気なんですか?だとしたら誰かこの哀れな私を含め空気洗浄して下さい。
「離しませんよ。私の恋人だ。」
「「「はぁあああっ?!?!」」」
ちょちょちょっ………!!
カミングアウト?!
まさかの?!
私新ちゃんに殴られる!!
まだ付き合った覚えないし!!
「おいキッド!!どういうことや!」
「そのままの意味ですが?」
「おい名前!どういうことだぁ?」
「そっそんな顔しないで新ちゃん……!」
「では、名探偵と喋っている時間を名前嬢に使いたいので……」
ポンッと鳴るのと煙が上がるのはほぼ同時で。
体が浮遊し視界がハッキリした頃には夕日の真ん中にいた。
「ちょっとキッド!!まだ付き合ってないでしょ?!勝手に恋人なんて言わないでよ!」
「まだ、ということは、私に明るい未来が待っていますね」
「あっ……いや……」
しまった。
恥ずかしい……
「名前嬢……私の羽根になって下さい」
「……台詞、クサイから嫌。ふふ」
「あとでしっかり告白しますよ……」
ニコリと微笑んだキッドの顔が近づいてきた。
それに目を閉じ、待つ私。
その時、2人の横をビュンッと何かが掠めた。
「ぎゃっ!!」
「……っ……」
2人で何かが飛んできた方向を見れば、新ちゃんのスニーカーがピリピリと光って、消えるのが見えた。
「本当にとことんいい所を邪魔してくれますね。あなたのお兄さんは。」
「あ、あの子はお兄さんじゃないよ……」
「では、あなたのことが好きな小学生。とでも言っておきましょうか。それなら恋敵の対象にはならないので、名探偵の前では堂々と愛でていいということですね」
「そっ、それは………」
これから新ちゃんにお説教の毎日をくらうだろう。
でもそれ以上に、あなたが好き。
「キッド」
「はい」
首に手を回して、ぐっと引き寄せキスをした。
軽い、フレンチキス
「……不意打ちはずるいですよ。後程、名前嬢が立てなくなってしまう程のキスをお返し致しますね」
「ふふ。期待してる」
オレンジ色の甘い空気に酔った私達は、空から見ても滑稽だ。
ーENDー
「13時か……」
大きな建物を見上げ、大きな字盤で時間を確認した。
13時半から探偵の仕事が入っているが、少し早く着いた様だ。
さて、どこで時間を潰そうか。
「おねーさん、江古田初めて?」
「え?」
振り返ると、1人の男がニコニコして首を傾げてきた。
「あ、わりぃ。なんかキョロキョロしてたから」
「……誰?」
「俺、黒羽快斗ってんだ!よろしくな!」
その瞳は無邪気で。
でも、同じ瞳をしていた。
私の好きな人と。
「あなたはーーー」
(俺の全てを知って欲しいから)
prev|next