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「ねぇ、白馬君。昔の約束、覚えてる?」

「え?昔の約束ですか……」

「そう、凄く小さい時の」

「昔の話ですからねぇ……うろ覚えです」

「……そっか。でもね、その昔の約束の話をしたのは、昨日よ?キッド」

「……っ……僕はキッドじゃ……」



引っかかりましたね。物の見事に。
昔の約束と言えば、約束した当初を連想させる。だけど白馬君じゃないあなたは、その“昔の約束”の話を昨日した事を、知らない。




「昔の約束はね、私がまだ小さかった頃、白馬君が好きだったんだけど、白馬君は私を好きじゃないってわかってた。それでも優しく接してくれてたし、海外にいることが多かったからか、挨拶替わりのキスや腰に手を回してくるの」

「………」

「でもそれをみんなにしてるのを見るのが辛かった。だから、私にはしないで。って言ったの。逆にね。その時後ろにいたお兄ちゃんが怖かったからか、約束を守り抜くと昨日言ってたわ。本物の白馬君が」

「そうでしたっけ?」

「まだ白を切るつもり?昨日守り抜くと言っていた約束、さっき早速破ってたじゃない」

「…それは調査不足でした。失態ですね」



立ち上がった彼に遅れて視線を上に向ければ、いつの間にかいつもの白い怪盗になっていた。


「なぜここへ来たの?」

「心配だったんですよ。名探偵がいるといつも事件が起こるので」

「それは否めないわね。ふふ。……でも、あなたは1度だってその白い姿で私を助けようとしてくれたことがない」

「それは……」

「私を抱きしめたり、手を握ってくれたり、心配してくれたり。他の人に変装してでしかしてくれない。私はキッドがいいのに。」

「名前嬢……」

「それがあなたの弱さ。そして怖いんでしょ?本来のキッドの姿で、探偵に心を許して、裏切られたりしたら自分はどうなるか。それがビビリで、脆い。」

「……そうですね。情けないですが」

「そして私には変装の時に助ければそれでいい。名前はそれで許してくれるはず。その考えが甘いのよ」


今まで幾度となく、キッドに助けられてきた。軽い時から、危ない時まで。


でもそれは全部、知らない人や、今日の様に白馬君の姿でしかなかった。キッドの姿では、いっさい助けてくれないの。

それなのに毎回ベランダに来ては、キッドの姿で愛を囁く。

そんなの、本気とは思えない。
もっと堂々として欲しい。

愛だけをキッドの姿で囁いて、行動を知らない人の力を借りて取るのではなく、キッドの姿でとって欲しい。


「本来の姿を見せて欲しいということですか?」

「まぁ、同い年くらいだとは思うから高校生なんだろうなとは思うけど、そこまでしなくてもいいよ」


私が逆の立場だったら、何か理由があって怪盗になっているんだと思うから。


「ただ、私はキッドが好き。変装した白馬君でもなく、そこら辺の人でもない。たまにでいいの。たまにでいいから、キッドの姿で行動に移して欲しい。」

「……なるほど」

「私は探偵という真逆の立場だけど、キッドを好きなのは変わらないよ」

「名前嬢…では、遠慮はいりませんね」

「いくじなしぃー」

「もう言わせませんよ」



フッと笑ったキッドは、手の甲にキスをしてくれた。

そのままどちらともなく見つめ合い、顔が近づいてくる。

目を瞑る直前、キッドも目を瞑るのが一瞬視界に入った。


その時ーーー。




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