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「で、どうすん「ちょっと失礼」

「えぁ?!っぶ!」


いきなり首に腕を回されそのまま名前の胸へ引きずり込まれた。

柔らかいものに顔面を押し付けられ、目の前は真っ暗。
何がなんだかさっぱりわからず、わかるのは名前の香りだけ。

顔に熱が集まり心臓の動きが加速するのは言うまでもなく。自分の心臓の音がどくんどくんと耳に響く。
落ち着くために小さい隙間からかろうじて息を吸い込んだ直後、1度少し離れた胸が名前の力んだ声と同時にまた勢い良く顔面に攻撃してきた。

「ぶっ」

「ふんっ!」


直後物凄い音と、背中の重みが取れた。

その後すぐに腕に解放され2人でへたりと地面に座り込む。
後ろを見ればイスが何事もなかったかの様に元の位置にたっていた。
一体どんなマジックを使ったんだと俺が聞きたいくらいだ。


「あの…黒羽君。ごめんね、巻き込んで」


まるで叱られた仔犬の様にしゅん、としながら謝ってきた。可愛いなんて思いながらもこれは俺が悪い。

それに俺が巻き込まれていなかったらこいつはイスを正面から受けて怪我をしていたかもしれない。俺が間に入って良かった


「おめーに怪我がなくて良かった。俺が悪い。ごめんな?」

「そんなことな……。っ!!!」


名前がチラリと俺の奥を見据えた瞬間、顔がサーッと青くなった。
どうしたんだろう。
俺も後ろを向くが特に何もな……
あった。


「あ」

「ごごごごめんなさぃいいい!!」


これで名前がどうやったのか解けた。
まぁマジックでも何でもなく、テーブルの下の隙間に脚が挟まっていたイスを、名前はそれに気付かず(というか見えず)両足で思いっきり蹴り上げたのだろう。
胸に俺の顔面が押し付けられたのは俺の頭で見えなかったからと、力を入れる為だと思われる。

その反動でイスが立ったのはいいが、脚の挟まっていたテーブルの下部分が割れてしまったのだ。まぁ、じーちゃんもこんくらい気にしないと思うし、素材が木だからしょうがねぇよな。
それよりこいつ怪力だな……



「こんくらい誰も気にしねーよ」

「でもぉ……」


あー泣きそうな顔になっちまった。
名前のこういう顔は見たくない。
可愛いんだけどさ。
今回はしょうがなかったよな。


「じゃあさ名前」

「ん」

「このテーブル新しいの買えるくらいまでここで働くか?なげぇぞー?きっと」

「えっ……?!いいの?!」


まぁほんとは弁償すらしなくていいが、こいつをキッドの助手にするかどーか、もう少し一緒にいてから判断しよう。
その為にももう少し名前と一緒にいてーし、こいつもここで働きたいとしつこいくらい言っていた。
2人にとってプラスになるんだから、悪くない案のはず。

嬉しそうだし。


「しっかり働けよ、見ててやるから」


嬉しそうにする名前の両頬を手で挟み、額同士をこつんとぶつけた。
今言った“見ててやるから”は、助手になれるか見ててやるわけじゃない。
おまえがドジらないように、ドジっても助けてやれるように。
おまえの第一歩。
甘んじて受け入れてやる。


「黒羽君の優しいところも、大好き」

「なっ……?!」


今までこいつから何回も大好きと言われてきた。バレたからもう何回言っても同じだというように。
でも今の大好きは凄く柔らかい笑顔と言葉。甘く耳に残るそれは、俺の心臓に刺激を与えるもので。
体中の血が湧きそうなくらい熱くなって、顔に熱が集まる。

いつもヘラヘラしているこいつだって、今だけは大人しく顔を真っ赤にして目を逸らしている。

凄く可愛くて、凄く守りたくて。
その顔も、大好きも、俺だけに見せればいいのにって思うくらい、俺はおまえに溺れてる事を今更知った。


好きなのかもしれないと薄々思っていたが間違ってたみてーだな。

好き、なんだ。名前。




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