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「お父さん?お母さん?どうしたの?」
後部座席にいた私は、助手席の母は急に項垂れ、運転席にいた父が力無く頭でクラクションを押している姿に、隣から聞こえる声など耳に入っていなかった。
「名前!出るぞ!!早く来い!」
ようやく聞こえて来た声は焦っていて、腕をグイグイ引かれる。
でも何故父と母を置いて行こうとするのだろうか。
「やだ!!なんでお父さんとお母さんを置いて行くの?!」
「ここは危ない!!早くお前も」
そこまで聞いて、体に突き刺さる様な痛みと共に、意識が途絶えた。
「名前さん!起きてください!」
眠たい意識の中で、また別の必死な声が聞こえ目を開ける。
そこには、透くんが少し焦った様な顔で私を見ていた。
「ん……夢か」
「嫌な夢見てたんですね。うなされてたので心配したんですよ?」
今のは本当に夢だろうか。
それとも記憶?
夢にしてはリアル。
顔は……やっぱり覚えていない。
隣の男は誰だったのだろう。
名前の呼び方が、病院に来たあの男と似ていた。家族だったのだろうか。
でも私の家族は全員死んだはず……
てことは、家族じゃない。
結局わからずじまいだ。
何か掴めそうだったのに、結局掴めない悪夢にため息をついた。
「……少し、ドライブしましょうか」
「え、でも仕事は?」
「終わりましたよ」
改めて透くんを見ると、エプロン姿ではなく、私服に着替えていた。
「お疲れ様。ドライブ行きたいな」
「ええ。仰せのままに」
キザねー。
なんて思いながら外へ出ると、もうだいぶ暗くなっている。
本当に今からドライブへ行くのだろうか。
「もう結構暗いけど……本当に今からドライブ行くの?なんか透くんに申し訳ないんだけど……」
「僕は夜のドライブは最高だと思いますよ?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
助手席のドアを開け促してくれたので、いそいそと乗る。
いつもの様に、少し甘く、けれど主張していない香りがなんとも落ち着く。
透くんにとっても合っている香りだと思う。
「じゃ、行きましょうか」
「お願いします」
とは言ったものの、どこへ行くのだろうか。聞こうと思ったが言葉にする前に喉の奥に仕舞いこんだ。
聞いてはつまらない。
ここは透くんのセンスを楽しみに待っていた方が良さそう。
とか言って期待を大きくしすぎるのも…と思い、墓場墓場となんとも自分のセンスを疑う様な場所を頭の中で繰り返した。
「どこへ行くと思います?」
「墓場?」
……はっ!!つい言ってしまった!
時既に遅し。透くんを見ると、若干引きつった笑顔で、ほんとに思ってます?と言われたので大きく首を横に振っておいた。
「で、どこ行くの?」
「秘密です」
「………」
結局……。
まぁ、でも、楽しみにしておくわね。
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