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『ベリーニ、出番ですよ。また僕とベリーニで組めと言われたので、今から迎えに行きますね』
「わかった、待ってる」
回想に浸っている中、バーボンから電話が来た。
立ち上がって準備をしながら、あの男のことを思い出す。
家の場所も思い出せなかったあの頃。
携帯もなぜか無くてあの男と連絡の取りようが無かった。あの日以来いっさい会うことが無く、行く年が過ぎ、家の場所をパッと思い出した時には、もう取り壊されていた。
きっとあの男が言っていた事は本当なんだ。あの男は、私となんの関係があるのだろう。
あの男の名前は………。
その時、着信音が鳴った。
それはバーボンからで、つきましたよ、と一言。
随分早いと思い時計を見ると、バーボンから迎えに行くと電話が来て30分は経っている。
私が回想に浸り過ぎたのか。
謎の多い過去にため息をつき、外へ出た。
「久しぶりね、バーボン」
「たった1週間じゃないですか」
ニコリと笑った彼は助手席を開け、促してくれた。
互いに公安からのスパイだとわかっているため、人殺しの任務を遂行する気はサラサラなく、さて今日はどうしようかと2人で作戦を練る。
「今日はとりあえず様子見だから、考えるのは後にしましょ」
「そうですね」
エンジンを掛けた彼の車に揺られ、目的地へと向かう。
窓の外を見ていると、トンネル内で窓越しに彼と視線が合った。
何故か気まずくて目を逸らすと、なんで逸らすんですか?と笑われる。
そんなの、なんとなくよ。
「……ところで、ベリーニはどうして黒の組織へ?」
付き合いは短い訳ではない。
ただ、互いに多くを語らぬ人だから情報を知らないのだ。
私がバーボンの事を知っているのは、三種類の名前。
公安時代から知っている降谷零。
私立探偵、ポアロで働いている安室透。
黒の組織として動いているバーボン。
思い返せば、彼は結構私を信頼して話してくれているのかもしれない。
思った以上に、彼の情報を知っていた。
一方、彼が私の事を把握しているのは、家族がいない事と、記憶喪失になった事と、名字名前という本名だけ。
詳しくは話していない。
でも何も聞いて来ないのは、家族がいない私に対しての配慮だろう。
でもそんな彼が、今質問をしてきた。
どうしたのだろうか。
「そっちこそ」
「僕はベリーニに質問しているんですが?」
「……私はね、知らない人から電話が来たから」
「誘われたって事ですか?」
「黒の組織が公安の私に勧誘の電話してきたらそいつの勇気を褒め称えたいわよ……」
大きなため息を着き項垂れると、彼は眉を下げ、ですね。と笑った。
「家族を失って公安に入って、少し経った時に私の携帯に公衆電話から電話がかかってきたの。非通知だったから、後で調べて公衆電話ってわかったんだけどね」
「………」
「その人に言われたの。君の家族はーーー」
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