プロローグ
目を開けると、見えたのは白い天井だった。病院だということはわかる。
窓を見つめ、なんでここにいるのだろうと1人考えた。
ドアのノック音が聞こえ、振り返ると知らない男の人が1人。
こっちを見ているから、きっと私に用事があるのだろう。服装からして医者ではない。
じゃあ、誰?
「よう。目、覚めたのか」
「……誰?」
「……覚えてないか?俺を」
「覚えてないか?って事は知り合い?」
「……いや、何でもない」
「誰なの?」
「……名前。君の家族はみんな事故に見舞われ、もういない。これからは、1人で生きていけ」
「……え……?」
「記憶喪失の様だから、医者を呼んでくる」
私が……記憶喪失?
家族はもういない?
1人で生きていけって何……?
「どういうこと、それ。記憶喪失の私が1人で生きていけって?無神経じゃないですか?」
「君はもう1人で生きていけない歳じゃない。」
立ち上がった彼は、そのままドアの方へ向かう。
「ねぇちょっと待ってよ!!誰なの?!名前だけでも教えて!」
「俺の名前はーーー」
タイミングを見計らったかのように、救急車のサイレンが鳴り響き、大切な部分は消え去った。
「聞こえなかった!ねぇ!待ってお願い!」
「……元気でな、名前」
笑顔で言ったその瞬間、彼は唇を噛み締め姿を消した。
prev|
next