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「さ、ポアロへ向かいましょ」

「ですね」


キッドがここでいいと言った場所でおろし、ポアロへ向かう。
私は先程思い出した事を、透くんに言うことにした。


「そういえば、ジンがシェリーを撃った時の煙の匂い、懐かしい感じがした」

「でも、その煙の匂いを感じたのは今日が初めてじゃないですよね?使う銃によって若干煙の匂いが違ったとしても、判別するのは難しいと思うんですが……」

「そこよね。多分、何かを思い出そうとしてるんだと思うんだけど……あーもどかしいっ!」

「はは。記憶はそう簡単に戻るものじゃないですから。ゆっくりでいいんですよ」

「ありがとう……」


頭をポンポンと撫でられ、どきりと心臓が鳴った。透くんはいつも優しいから、少し期待してしまいそうになる。
例えこんな小さな事でも。


「……なんか、透くんに守って貰えてる気がして、嬉しい」

「守りますよ。名前さん」


横からすっと伸びてきた手は、私の頬に添えられた。
ぴくりと反応して透くんを見れば、微笑みながら、親指で頬を撫でられた。


「……そんなあからさまに照れないで下さい。僕に移ってしまいますから」

「あっ…ご、ごめん……」


そんなの無理だよ。
こんなに優しく微笑まれたの、初めてなんだから。
愛情を感じてしまう優しさだった。
でも恋愛とは違う、何か……家族の様な愛情。大切にされている様な感じ。


「はい、降谷です」


その声にハッとすると、隣で電話に出ていた透くん。
公安たるものが、運転しながら電話しちゃだめでしょと睨みつけると、苦笑いして路肩に止めた。


「ふぅ」


と少し浅めに座り、一息。

そういえば、降谷って久しぶりに聞いたな。最近はもっぱらバーボンと透くんしか呼んでないから……。
最後に零くんなんて呼んだのはいつだったろうか。
ちょっと久しぶりに呼んでみたくなって、後で呼ぼうと密かに決めた。

そういえば、ゼロという言葉に反応してしまったことを言い忘れていた。
忘れないうちに言わなきゃ。

……ゼロ……

零……

……えっ………

まさかね……?


「すみません、部下からでした」

「………」


聞き覚えのあるゼロ。
まさか零くんの事じゃ……

もし、“ゼロ”という言葉を記憶喪失の前に使っていたとするなら……

あの男は、零くんなんじゃ……

私の記憶を取り戻すのに執念深く協力してくれているし、あの男が家族じゃないなら、可能性はある。


「……名前さん?」

「ねぇ、零くん……」

「どうしたんですか、急に零くんなんて。懐かしいですね」

「ゼロって呼ばれてた事、ある……?」

「……ありますよ。主に、昔から関わっている人物から」




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