12
「さ、ポアロへ向かいましょ」
「ですね」
キッドがここでいいと言った場所でおろし、ポアロへ向かう。
私は先程思い出した事を、透くんに言うことにした。
「そういえば、ジンがシェリーを撃った時の煙の匂い、懐かしい感じがした」
「でも、その煙の匂いを感じたのは今日が初めてじゃないですよね?使う銃によって若干煙の匂いが違ったとしても、判別するのは難しいと思うんですが……」
「そこよね。多分、何かを思い出そうとしてるんだと思うんだけど……あーもどかしいっ!」
「はは。記憶はそう簡単に戻るものじゃないですから。ゆっくりでいいんですよ」
「ありがとう……」
頭をポンポンと撫でられ、どきりと心臓が鳴った。透くんはいつも優しいから、少し期待してしまいそうになる。
例えこんな小さな事でも。
「……なんか、透くんに守って貰えてる気がして、嬉しい」
「守りますよ。名前さん」
横からすっと伸びてきた手は、私の頬に添えられた。
ぴくりと反応して透くんを見れば、微笑みながら、親指で頬を撫でられた。
「……そんなあからさまに照れないで下さい。僕に移ってしまいますから」
「あっ…ご、ごめん……」
そんなの無理だよ。
こんなに優しく微笑まれたの、初めてなんだから。
愛情を感じてしまう優しさだった。
でも恋愛とは違う、何か……家族の様な愛情。大切にされている様な感じ。
「はい、降谷です」
その声にハッとすると、隣で電話に出ていた透くん。
公安たるものが、運転しながら電話しちゃだめでしょと睨みつけると、苦笑いして路肩に止めた。
「ふぅ」
と少し浅めに座り、一息。
そういえば、降谷って久しぶりに聞いたな。最近はもっぱらバーボンと透くんしか呼んでないから……。
最後に零くんなんて呼んだのはいつだったろうか。
ちょっと久しぶりに呼んでみたくなって、後で呼ぼうと密かに決めた。
そういえば、ゼロという言葉に反応してしまったことを言い忘れていた。
忘れないうちに言わなきゃ。
……ゼロ……
零……
……えっ………
まさかね……?
「すみません、部下からでした」
「………」
聞き覚えのあるゼロ。
まさか零くんの事じゃ……
もし、“ゼロ”という言葉を記憶喪失の前に使っていたとするなら……
あの男は、零くんなんじゃ……
私の記憶を取り戻すのに執念深く協力してくれているし、あの男が家族じゃないなら、可能性はある。
「……名前さん?」
「ねぇ、零くん……」
「どうしたんですか、急に零くんなんて。懐かしいですね」
「ゼロって呼ばれてた事、ある……?」
「……ありますよ。主に、昔から関わっている人物から」
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