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「ジン、シェリーを確保したわ。今からバーボンとそっちへ向かう」
『やっとか……』
「ごめんなさいね、遅くなって」
『逃がすなよ』
「わかってる。じゃあ」
通話ボタンを切って、シェリーをひと睨み。
手を後ろで縛った、18歳の宮野志保。
「行くわよ、シェリーちゃん」
「………」
「大丈夫。コナン君は隔離しておいたから。ふふ」
「……っ……」
車を出したバーボンの元へ行き、シェリーを中へ押し込めた。
「さ、行きましょ」
「これからどうなるか楽しみですね、シェリー」
ーーーー
「着いたわよ。さ、歩きなさい」
服を掴み、無理やり車の外へ出した。
「きゃっ!……どうせ死ぬんだから、そんな扱いしなくてもいいでしょ?最期くらい、綺麗に死なせて」
「相変わらず口が達者ね」
「よぉ。やっと会えたな……シェリー」
「ジン……!!」
ジンのお出ましだ。
ジンが睨みつけると、震え出すシェリー。
そのシェリーをぎゅっと抱いて、耳元で囁いた。
「あと少しで楽になれるわ」
「近寄らないで!!」
私を睨みつけるシェリーを見て、笑う組織のメンバー。
もし、本当に私の両親もこのメンバーに殺されたのなら、どんな気持ちだったのだろうか。
今のシェリーみたく、震えていたのだろうか。
そう思うと、本当にここへスパイとして来たのは、正解なのだろうか。
顔も思い出せない両親。
もし記憶喪失でなければ、今はぎゅっと握っているこのこぶしに銃を持ち、組織のメンバーを撃ち殺していたかもしれない。
記憶喪失にある意味助けられた。
「ベリーニ。僕の車を車庫へしまってきて貰えますか?」
その声に、ハッと我に返り頷いた。
近づいてきたバーボンは私の固く握りしめていたこぶしを手に取り、車の鍵を握らせた。
「お願いしますよ?」
にこりと笑うその笑顔の下で、私の鍵を持った手をぎゅっと握る。
あぁ、きっとバーボンは気づいていたんだ。一旦私を退却させる為に、頼み事をしたんだね。
とりあえず今は、思い出してはいけない。
「行ってくるわね、バーボン」
「行ってらっしゃい」
踵を返し、歩きながらもジンとシェリーの会話に聞き耳を立てる。
「シェリー。お前にチャンスをやろう」
「チャンス……?」
「お前の腕は確かだ。このまま組織に戻り、薬の完成に生を注がないか?」
「………」
「答えろ。死ぬか生きるかどちらかの選択なんて、簡単だろ?……シェリー!」
大きなジンの声が、響き渡る。
「………」
「3秒以内に答えろ。3……」
「………」
「2……」
「……っ…」
「1……!」
「〜っ!」
「ゼロ…!!」
ドクンっ……
心臓が、大きく脈打った。
ゼロ………?
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