―――…しかし「また後で」と言っていたが、それは一体いつなのか。

パイを持ってきたのが確か午後3時過ぎくらい。
今の時刻は11時になろうとしている。
普段この時間はもうブルーベルは寝ているはずだし、次の襲来は明日かな。

そう判断して僕も明かりを消してベッドに横になる。
天蓋付きのキングサイズ、色は勿論白の特注品だ。
ソファーやベッド、他の家具も全てオーダーメイドのこだわった物。
こういう一見馬鹿みたいに見える無駄遣いが意外と楽しいと感じる時がある。


『すっごーい!びゃくらんのベッドふかふかー!』
『でしょ?』
『ブルーベルもこういうベッドでねたーい』


初めてブルーベルが僕の部屋に来た時の感想だ。
ちなみにこの時も当然何もしていないよ。普通に会話して、寝る時は自室に帰したからね。


―…キィ


「!」


ほんの小さな音であったがこれは確かに扉の開く音。
こんな時間に誰だ?
考えを巡らせつつ気配を探り―………緊張を解いた。

さて、一体何をするつもりかな。

狸寝入りを決め込むと、侵入者はそろそろとベッドに乗り、僕の頬に手を伸ばしてきた。


「………っ」


お互いの吐息がかかるほどに顔が近づく。
侵入者はそのまま僕に口づけ…


―パチッ


「にゅ!?」


…る瞬間、僕は部屋の電気をつけた。


「やあ、ブルーベル」


起き上がり、深夜の侵入者を笑顔で迎えれば水色の目が大きく見開かれる。
何度かまばたきをするとわなわなと震えだし、口を開いた。


「いっいつから起きてたの!?」
「最初から。そもそも眠ってなかったけどね」
「にゅ〜…騙された…」


ガクッとうなだれるブルーベル。
しかしすぐにハッとしたように首をぶんぶんと振り、僕に向き直る。
再び僕の頬に手を滑らしやや上目遣いで見つめてくる。


「びゃくらん…」
「…ッ」


どこをどう取っても誘っているようにしか聞こえない甘ったるい声。
改めて見れば化粧もしているのか雰囲気も大人びていて。
幼い顔立ちと体つきに反したその色香に少しばかり理性がグラつく。



けれど。



「化粧は桔梗チャン辺りにやってもらったのかな?」
「にゅっ」
「しかしこんな甘ったるい声、どこで覚えてきたの」


敢えて雰囲気をぶち壊す事を選んだ。


「にゅ〜…けしょうは桔梗に頼んだ…」
「それで?」
「…………」


もう一つの質問の答えがまだだ。

しばし睨み合い。と言っても僕は笑顔のまま。

まあ薄々予想はついてるんだけどね。多分ザクロチャン辺りがAVでも見せたんでしょ。
今後の為にも流石に注意しとかないといけないかな。
僕好みに調きょ…じゃなかった。教育上よろしくないしね。

やがて根負けしたブルーベルが口を開いた。


「…ザクロにどうやったらびゃくらんに子供あつかいされなくなるかってきいたら『コレでも見て誘い方の一つでも覚えな。まあお前じゃ無理だと思うけど』って…男と女がせっくすしてるDVDわたされた」
「ああやっぱり…」


これは僕じきじきに注意しないとね…
軽くため息をつくとブルーベルが袖を引っ張った。


「ね、びゃくらん」
「ん?」
「ブルーベルとびゃくらんは…“恋人”…だよね?」
「そうだよ」


水色の瞳が揺れる。


「びゃくらんは…ブルーベルのこと、好き?」
「うん」


“好き”とは返さない。

こんな答えじゃ満足も納得も出来ないだろう。

けれど“もしも拒絶されたら”

僕とブルーベルの立場は同位ではない。
普段の態度には出さずともそれをちゃんと理解しているからこれ以上は踏み込まない。


「そう…」
「…ブルーベル」
「…?」


水色の髪に唇を落とせばパッと飛び退いて僕の顔を見る。


「今夜はもう遅いから、また明日ね」
「う、うん…」


ブルーベルがベッドから降りて扉へ向かう。
どことなくシュンとして見える背中にもう一度声をかける。


「ブルーベル」
「…?」

(す・き・だ・よ)


声には出さずに口の形だけ。

それでももうしばらく言わずにいたことを伝えたのは今夜のブルーベルの頑張りへのご褒美。

気づいても気づかなくてもいいんだけれど…ちゃんと僕の人魚姫はわかったらしいね。

満面の笑顔で部屋を出て行った。


「…………」



いずれブルーベルももっと優しくしてくれて、もっとちゃんと“恋人”として扱ってくれる、僕以外の相手を見つけるだろう。


今の僕らのじゃまるでお遊びの“恋人ごっこ”
ママゴトのような関係。

けれど僕はそんなママゴトのような関係も悪くないと思っているんだ。

だってまだ、加減がきくからね。

………ブルーベルを傷つけるたくはない。





………ま、それもブルーベルが僕以外に目を向けるまでだけど。



(―そんな相手を見つけたら、僕も本気出すしね)

(そしたらママゴトは終わり)

(離してなんて、あげないよ)





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