短編 | ナノ







扉を開けたその先にある円柱形の部屋は360度、上から下まで本の壁で埋め尽くされていて、非現実的なその部屋に私は思わず息を呑んだ。


「すごい本の数…」

「僕も最初見たときは驚きましたよ」

私の隣で昴さんも同意する。昴さんも本好きらしいけどこんな本に囲まれた家は初めて見たと言っていた。


私は昔からの本を読むのが好きだ。それは大人になった今でも変わらず、活字を求めて時々図書館にも足を運ぶ程だ。その事をコナンくんに言うと知り合いの工藤新一くんの自宅に本がたくさんあるから遊びに行かないかと言われた。本人が不在なのにいいものかと悩んだけど、コナン君はシャーロキアンだから私もその仲間に入れたいみたいだった。私が悩んでいる間にあれよあれよと話しが進み、今日私は工藤くん家に遊びに来ていた。

こんな本の壁を見せられたらミステリーファンじゃ無くても圧倒されてしまう。コナンくんも一緒に来る予定だったけど急遽決まった少年探偵団のキャンプの方に行ってしまった。


「では、僕はお茶でも入れて来ますね」

「あぁ…お構いなく」

本の数に圧倒されている間に昴さんはお茶を入れる為に部屋を出て行ってしまった。律儀だなと思いつつ、1人残された私はどんな本があるか見てみる事にした。日本語は勿論、英語の本もある。小さな図書館と言われても不思議じゃないくらいたくさん本がありすぎて逆に何を読むか悩んでしまうくらいだ。そんな事を考えていると見た事のある背表紙を見つけた。

あれは、昔読んでいたシリーズ物だ!新作出てたんだ。

昔、学生の頃に読んでいたシリーズの新刊を見つけて思わずテンションが上がる。独特な背表紙だったので新刊でも一目で分かった。その本は結構高い段にあったので私は急いでキャスター付きの脚立を持って来てすぐに登り、その本を手に取った。早く読みたくて脚立から降りるのも億劫に感じてそのままページを捲る。

「懐かしい〜」

なんだか古い友達に再会した気分だ。軽く冒頭だけ読んでから降りようと思っていたけど、ストーリーが気になってどんどん読み進めていく。その物語は続編だけども月日が経っても色褪せることなく私をその世界へと誘い、夢中にさせてくれた。


「なまえさん」

「え?…うわっ!」

夢中で本を読んでいたら急に話しかけられ驚いた私はバランスを崩した。身構える事も出来ずに背中から落ちる。激しい痛みを覚悟して思わず目を瞑ったけど背中と膝裏に少しの衝撃しか無かった。

あれ?確かに落ちたよね、私。意外と痛くない。それよりまだ空中に浮いているような浮遊感がある様な……。

私はゆっくりと目を開けるとそこには心配そうに私を見る昴さんの顔があった。整いすぎている顔が近いせいか思わず胸が高鳴る。どうして昴さんがこんな近くにいるのか状況が理解できず瞬きしか出来なかった。

「大丈夫ですか?すみません、急に話しかけてしまって」

「あっ…はい。」

昴さんに話しかけられてやっと自分が置かれている状況が理解できた。脚立から落ちた私を昴さんがお姫様抱っこで受け止めてくれたのだ。

お姫様抱っこのせいで昴さんの顔がいつもより近い。零もイケメンだけど昴さんも顔が整っているから物凄く心臓に悪い。美人は3日で飽きるって言うけどイケメンは何日見てても飽きない気がする。なんて考えていたらずっと抱っこされたままでいるのに気づいた。絶対重たいって思ってる!我に返った私は慌てて昴さんに謝罪をした。

「ごめんなさい!お、降ります。重かったですよね」

「重くなかったですよ」

昴さんはゆっくりと地面に私を降ろしてくれた。降りる時にふらついた私は思わず昴さんの胸に手を置いてしまう。距離が近いせいか昴さんから煙草の匂いがして少しだけ胸がドキリと跳ねてしまった。煙草の匂いは苦手だけど昴さんからなら許される気がするからイケメンパワーは偉大だ。

人1人受け止めたのに昴さんは以外にも涼しい顔をしていた。絶対重たいはずなのに涼しい顔を出来るなんて、演技力なのか力技なのか笑顔の裏にある本音は上手く隠されていて分からなかった。

「昴さんて意外と力持ちなんですね」

「火事場の馬鹿力って奴ですよ。なまえさんに怪我をさせてしまったら、貴女の彼氏さんに申し訳ないですからね」

零の名前を出されて私は苦笑いしか出なかった。2人は…と言うより零が昴さんを敵対視しているから私に何かあったらもっと仲が悪くなると思ったんだろう。

うん…零なら100%私が悪くても絶対昴さんにキレそう。怪我が無くて良かった。怪我したら絶対聞くだろうし、零相手に誤魔化す事なんて不可能だもんね。


トラブルもあってドキドキしていたけどその後、平常心を取り戻し昴さんのお茶を楽しみつつ2人で本を読みながら穏やかな午後は過ぎ去って行った。







夕方、昴さんと別れ帰宅すると零の靴が玄関にあった。今日は帰れたのか、珍しい。零とは一緒に住んでいるけど彼が帰って来ない日が多いからほぼ一人暮らしみたいなものだった。久々の彼氏の帰宅は胸が躍る。靴を脱ぎただいま、と声をかけると零が寝室から顔を出した。

「おかえり、なまえ」

「久しぶり、零。お仕事お疲れ様。晩御飯作るから座って待ってて」

今日は少し冷えるから鍋でもしようかと考えながら零の横を通り過ぎる。するといきなり後ろから零に抱きつかれた。

「わ!びっくりした。どうしたの?」

零は黙って私の首に顔を埋める。零のサラサラした髪が肌に当たってくすぐったい。どうしたんだろう?珍しく仕事でミスしたから甘えたいのかな?それとも久々に会えたから嬉しいのかな?疲れていると甘えたくなる気持ちは分かるからよしよしをしてあげようと零の頭に手を伸ばした。

「あの男の臭いがする」

「え!?」

頭を撫でようとした手が思わず止まる。零の言葉に冷や汗がぶわっと出た気がした。零は甘えていたんじゃ無い、私を受け止めた時に移った昴さんの匂いを嗅ぎ取って確認していたんだ。さっきまで昴さんと2人っきりだったなんてバレたらヤバい。私は急いで零の拘束を解き距離を取る。

「犬じゃないんだから、匂いなんて嗅がないでよ!」

どうしようと焦る私に、零はにっこりと笑って近づいて来る。笑顔なのに恐怖を感じてしまった私は反射的に後退りをしてしまい、結局壁に追いやられて逃げ場を失った。そして向かい合ったまま壁に手を付かれ首元に顔を埋められる。

「そんな事はない、俺は犬だよ。人の周りをコソコソ嗅ぎ回る探偵と言う名の犬で、日本警察の犬で…」

零の唇が私の首筋を這う。服もずらされて彼の息と髪が直接肌に当たりくすぐったくて声が出そうだ。零の唇が首から胸へとゆっくり這って行き、そして胸元に小さな痛みが走った。きっとキスマークをつけたんだろう。痛みと羞恥で思わず小さな声が漏れてしまった。

「んっ…」

「君の番犬さ」

なんか他にも私の知らない顔がありそうだけとツッコむのは止めておいた。それよりも今は昴さんと会っていた事をはぐらかす事が優先だ。

「と、友達だよ。同じ煙草吸ってるのかも」

「ホォー、誰とは言っていないのによく分りましたね。それにあの男とは言いましたが、煙草の匂いとは一言も言ってませんよ」

『そりゃ、怒った声であの男と言われれば誰だってわかりますよ』

と言いたかったけどそれは昴さんと一緒にいた事を認めてしまいそうになるので言うのを我慢した。

零は昴さんが嫌いだ。理由は知らないけど、ちょくちょく突っかかった言い方をする。だから彼に内緒で昴さんに会いに行ったのに。バレたら本当にまずい。どうはぐらかすか焦っている私を他所に、零は顔を上げにこにこ楽しそうに笑う。

「なまえがはぐらかすならそれでいい、黙っていてても構わない。この国には黙秘権もありますしね。だが…」

「ひやっ!」

零はいきなり私をお姫様抱っこする。驚いて思わず悲鳴を上げて零にしがみついた。

「僕は取り調べも得意なんだ。君が言わないのなら歌ってもらうまでだ」

「う、歌う?」

「ごめん、自白するって意味さ」

僕なんて普段私の前では使わないくせに、仕事モードか。本日2回目のお姫様抱っこはトキメキよりも身の危険を感じた。そんな私を無視して零は私を抱き抱えたままどこかへ歩き出す。

「ちょっと待って零!どこいくの?」

「風呂。そんな匂いをさせて帰って来るなんていい度胸だ。匂いを落とすのに丁度いいから一緒に入ろう」

「え!?やだ!助けてハロー!」

私の決死の叫びにハロは一応顔を出してくれたけども尻尾を振ってお見送りしかしてくれなかった。最終手段として必死に抵抗したけれどもそれすら無駄に終わってしまいそのまま風呂場に連行されて、そこで行われた零の入念な取り調べて私は呆気なく声高らかに歌ってしまった。

そして零のお説教は次の日まで続き、私は嘘をついた罰として二度と工藤くんの家へ行くことを禁止されたのだった。




21.0116
降谷さんのクロスした前髪好き
親方!空から女の子が!的なネタと壁ドンそして降谷さんの入念な取り調べ(意味深)笑 をぶっ込みました


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