広いホールに豪華なシャンデリア、豪華な食事に様々なドレスで着飾ったたくさんの人達にここは本当に日本なのかと疑いそうになる。
今日私は園子ちゃんに誘われてベルツリーホテル完成披露パーティーに招待されていた。政界や財閥が参加するパーティーに自分なんかがとんでもないと初めは参加を断ったが少年探偵団のみんなに、えーなまえお姉さんも一緒に行こうよーなんて可愛く誘われたら断れるはずもなく参加することになってしまった。
「私パーティーなんて初めてだし、どんなの着ていけば良いの?」
「大丈夫なまえさん!私も蘭もレンタルドレス用意してくれるんだ。なまえさんの分も頼んでおくからまっかせなさい!」
ドンと胸を叩く園子ちゃんが逞しく見えたが、鈴木財閥のお嬢様が用意してくれるドレスなんてレンタルでもお金の心配をしてしまう。そんな心中を察してか園子ちゃんは
「大丈夫大丈夫、実はイタリアの有名なデザイナーがママと知り合いでドレスの宣伝も兼ねて新作を着て欲しいって依頼があったの。もちろんタダだし、小物もメイクもやってくれるからなまえさんは心配しなくても大丈夫よ」
さすが鈴木財閥やる事が違う。
こうして私は流されるままパーティーに参加したのだった。
パーティー当日
早めに待ち合わせした私と蘭ちゃんと園子ちゃんは控え室に通されていた。私はてっきり1人1着ずつ用意されていると思っていたのだが、控え室に入った瞬間目を疑った。壁一面にカラフルなドレスが並べられていて小物も大量に山積みされていた。まるでウェディングドレスの試着室みたいな部屋に私も蘭ちゃんも驚いて固まってしまった。
「そ、園子ちょっとこれ多くない?」
「え?そう?デザイナーのアントーニオおじ様曰く1番合うやつを着て欲しいってこれでも少なめに用意したんだけど」
「これで少なめ…」
多分50着以上あるドレスに遠のいていると、私達に気づいた女性達がこちらへとやってきた。
「お久しぶりです、園子お嬢様。今回はよろしくお願いします」
「イザベラおば様今日はよろしく。2人共紹介するね、アントーニオおじ様の奥さんのイザベラおば様よ。モデルで化粧品やブティックのプロデューサーをしてるの」
「はじめまして、園子の親友の毛利蘭です」
「はじめまして、みょうじなまえです」
「ご挨拶もほどほどに、時間がありませんわ。早速お手伝いさせていただきます。Aチームは園子お嬢様をBチームは蘭さんをCチームはなまえさんを頼みますわ」
イザベラさんの合図と共に後ろに控えていた女性たちが一斉に動き出した。それからあれよあれよとドレスを選び着せられ、メイクに髪型までセットされ出来上がった自分は驚くほど別人になっていた。
「なまえさん超綺麗!やっぱ大人の魅力は違うわー」
「安室さんにも見せつけてあげたかったですね」
「なんならタクシー呼んでポアロ行きます?安室さーん私を食べてーって!」
「やだ園子やめなよー」
「ちょっと2人共落ち着いて」
嬉しそうにはしゃぐ2人はすごく楽しそうだ。
安室透は私の恋人で公安警察で潜入捜査員の降谷零でもある。零にも見て欲しかったが今日は何をしているのかわからない。
「安室さんも来れれば良かったのにね」
「仕方ないよ安室さんも探偵の仕事とかあったらしいから」
「透は忙しい人だから。ほらほら早く会場に行こう!」
本当は会いたいでもそれは無理な話だ。だって零は今も日本の為に働いている。寂しいなんて言ってられない。悲しい気持ちを隠すように笑って2人の手を取り私達はパーティー会場へと向かった。
パーティー会場には大勢の人がいて子供達や毛利探偵、阿笠博士と合流できるか心配だったが意外にも早く見つけられる事ができた。
「わーなまえお姉さん綺麗!」
「ありがとう。歩美ちゃんも哀ちゃんも可愛いよ」
「ありがとう。お世辞でも嬉しいわ」
「ほ、本当よ」
哀ちゃんはすごく大人っぽくて小学生とは思えない時がある。コナン君もそうだが最近の小学生は精神年齢が高いのだろうか。
「馬子にも衣装ってやつだな!」
「元太君、それ褒めてませんからね」
「元太君、光彦君、それにコナン君もカッコイイね」
「ありがとう、なまえお姉ちゃん」
少し照れ臭そうにお礼を言うコナン君はなんだか幼く見える。やっぱり子供だな、と和んでいたら腰に誰の手が回ってきた。
「ひゃっ!」
「いやーいい腰だなぁ。お嬢さん今晩俺の部屋来ない?」
手の主は30代くらいの酔っ払った男性だった。男性から香るお酒の臭いはパーティーは始まったばかりとは思えないきつい臭いをしていた。私は慌てて距離を取り頭を下げる。
「すみません。連れがいるのでお断りさせて下さい」
ここには子供達と私しかいない。毛利探偵や蘭ちゃんたちは鈴木会長に会いに行っていて今保護者は私しかいなかった。みんなに何かあったら大変だ。子供達の為にもなるべく相手を刺激しないよう穏便に終わらせたい。
「んだよ、子連れかよ」
舌打ちと共に去っていく男性に私は安堵した。良かった大ごとにならなくて。
「なまえお姉さん大丈夫?」
歩美ちゃんが不安そうな顔をして私を心配していた。他のみんなも暗い顔をしている。私が傷ついたと思っているのだろう。優しい子達だ。私はすぐ歩美ちゃんの頭を撫でて安心させた。
「びっくりしちゃったね。もう大丈夫よ、ほらそれよりみんなご飯食べよう」
「良かった!みんなあっちに美味しそうなものあるよ」
「うな重か!」
「僕もうお腹ペコペコですー」
私がそう言うと安心したのかにっこり笑って、料理の並ぶテーブルへと三人は駆けて行った。走っちゃダメだよ、と声をかけながら私はコナン君と哀ちゃんと後を追う。
「気をつけなさいよ、あなた狙いやすそうだし」
「灰原…」
「はい、気をつけます」
哀ちゃんの大人びた忠告に私もコナン君も思わず苦笑してしまった。
そのあと毛利探偵や蘭ちゃんたちも戻って来て料理やお酒を楽しんだ。パーティーも中盤に差し掛かった頃、私は化粧が気になり化粧室へと1人で向かった。
会場を出て廊下の先にある化粧室は人も少なく、化粧もそんなに崩れていなかった。化粧品も高いの使っているんだろうな、園子ちゃんに今度お礼しなくちゃなんて考えながら化粧室を出る。するといきなり後ろから右手を強い力で捕まれ引っ張られた。
「嫌っ!…んー!」
助けを呼ぼうとしたが口元に手を当てられくぐもった声しか出ない。驚きとパニックになってる間私は別の空きホールにまんまと連れ込まれてしまった。
「んー!んんー」
真っ暗なそこは目も利かずパニックになるばかり。激しく抵抗しても拘束は一向に解けない。捕まった時周りに人がいなかったから目撃者もいないだろう。
どうしよう、まさかさっきのあの人?
口元にある手を噛んでしまおうかそう決心したその時
「なまえ」
と、聴き慣れた声が私の名を呼んだ。
私は驚いて抵抗を止める。
まさか、この声はでもなんでここに?
真っ暗だったホール内も外の光と時間のお陰で慣れてきた。抵抗を止めた私に彼は手を離す。拘束が解かれ自由になった私はゆっくりと振り返り彼に向き合った。
「零…」
「綺麗だ、なまえ」
そこにいたのはスーツを着た零だった。綺麗だと優しい目で言われ思わず胸がときめいたが騙されてはいけない。私は今拉致されてきたのだ。
「どうしてここにいるの?」
「仕事ですよ。早く終わらせて貴女の元に向かいたかったですが予想より時間がかかっちゃいました」
3つの顔を使い分ける零は私と2人きりでも零じゃなくなる時がある。今は安室透モードらしい。何故だかわからないが多分私をからかっているのだろう。
「もう!脅かさないでよね。危うく零の手噛む所だったんだよ。不審者かと思ったじゃん」
「不審者、それってさっきの人ですか?」
あ、やばい。顔は笑っているが目が怒っている。
私が危機を感じた直後、零は私との距離を一気に詰め腰に手を回しもう片方の手は私の顔に添えられる。
整った顔が近く恥ずかしくて目を瞑ると次の瞬間彼の唇が私の唇と重なった。
「ん…あっ…」
最初は触れるだけのキスだったが徐々に深くなっていく。零の舌が私の舌を絡めお互いを求め合う。静かなホール内にリップ音だけが響いた。長いとろけるようなキスにすっかり腰が抜けそうになった私を零は優しく抱きしめた。
「さっきの男、公安お得意の違法捜査で逮捕しましょうか」
輝く笑顔でそんな事言うもんだから笑えない。そして本当に出来そうで尚の事笑えない。
「見てたの?」
「えぇ。俺のなまえに触れる所も。子供達を守る為あえて騒がす穏便に済ましている所も全部」
男に触れられた所をまるで上書きするかのように優しく撫でられる。
零は独占欲が強い方だ。きっと失ってきた物が多いから新たに無くすのが怖いのだろう。心配しなくても私は零のそばにずっといるのに。
「ありがとう、もう大丈夫。そろそろ戻らなきゃみんな心配しちゃう」
「ではこの安室透。よろしければ貴女のエスコート役を引き受けたいのですが、よろしいでしょうか?」
零は私から少し離れると、左手を胸に右手を私の前に差し出した。ウインクも決めて私の手を待っている。まるで世間を賑わせているあのキザな怪盗みたいでちょっと笑えてくる。
「はい、喜んで」
差し出された手を取ると零は満足そうに笑う。
そのまま腕を組み私たちはみんなが待つ会場へと向かって行った。
その後共に現れた私達を見て拭い損ねた零の唇にあるリップをみんなに茶化され赤面したのは別のお話。
20.0826
本当はリップに気付いていたけど降谷さんはあえて残しそう。
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