生まれた時から運は無かった。
両親と呼べるものはいなくて、子供の頃にやったすごろくみたいに親戚中をたらい回しにされた。私の居場所はどこにも無くて、居場所を求めて街を彷徨っていたら真っ当な道を外れていて元に戻る道を見失っていた。
人を殺す以外の犯罪はやったと思う。警察にも顔を覚えられてそろそろ落ち着こうと18の時に悪い子は卒業した。それでも私には居場所が無くて夜の街をフラフラしてたら色々なモノを見聞きする。それを他の人に流しては金を得て、寒さを凌ぐ為やご飯を食べる為に時には身体を売って今まで生きてきた。
気付いたら私には本名とは別の名前が付いていて、その名前に慣れた頃1人の男に出会った。
「貴女が情報屋のロゼですか?」
「アンタは?」
「初めまして。バーボンこれが僕の名前です。貴女の情報、僕に売って下さい」
バーボンと名乗ったそいつは落ち着いた雰囲気の男で、すぐにお得意様の1人になった。
私はすぐにバーボンが気に入った。顔もイイし他の奴より報酬もたくさん貰えるし、何より私の事を深く聞いて来ないからだ。私に興味が無いからかもだけど、そっちの方が私には良かった。お互い何も知らない。知っているのは名前と顔だけ。あっちも偽名でしょうけどね。
仕事以外の話しはしない様にしていたけれど、ある日突拍子も無く、情報じゃなくて私自身を見て欲しくなった。私の事を聞いて欲しくないくせに、自分でもよく分からないまま彼を誘った。
「ねぇバーボン、いい情報があるの。買っていかない?」
「珍しいですね。貴女が自ら営業するなんて、高く付きそうだ」
「そうね。なら貴方の身体、ちょうだいよ」
バーボンは私からの誘いに目を丸くし、そして鼻で笑った。今までたくさんの男に抱かれて来たけど、こんな事自分から初めて言った。
「随分と直球なお誘いですね」
「嫌なら断ってもいいのよ」
「女性の誘いを断るなんて野暮な事だと僕は思いますよ」
誘った私自身、彼が乗って来る事に意外性を感じてしまった。バーボンは裏社会の人間だけども…なんと言うか、そういう事に関しては潔癖っぽかった。てっきり断られて、私は悔しさを隠しながら冗談よ、なんて言って終わるかと思っていたのに。ずいぶんとあっさり承諾してくれて、誘った私の方が拍子抜けしてしまった。
そしてその日初めてバーボンとホテルに行って身体を重ねた。ヤるならブサイクよりイケメンの方がいい。バーボンとの初めての夜は今までのどの男とも違っていた。彼のテクなのか相性がいいのか、とにかく気持ちよかった。意外と遊んでんだな、と頭のどこかで考えていて私も彼のセフレの1人になったんだなと思っていた。
次の日、目を覚ますとそこには彼の姿は無かった。部屋代は支払われていて、慣れている所がイライラした。部屋代払って無くても怒っていただろうけど。
その日からバーボンと身体を重ねる事が多くなった。
情報を売るついでや、何もない日でも呼び出したり呼ばれたり。身体を重ねれば少しは違う関係になれたかもしれないと思ったけど、情報屋と客からセフレが追加されただけだった。
だって男と女が深い関係になる術なんてそれしか知らなかった。後悔は全くしていないけれども、私がまともな人間なら違う関係になれたのだろうか。
そして彼は朝になれば必ずいなくなる。初めからそうだったからか暗黙のルールになってしまった。彼と寝た次の日の朝はぐしゃぐしゃになったベッドの上で1人目覚める。
彼とそういった関係になってから朝が大嫌いになった。
もしも私が彼に行かないでって言えばなんて答えが返ってくるんだろう。それは好奇心なのか本心なのか自分でも分からない。
「ねぇ、バーボン」
「何ですかロゼ」
朝になっても行かないで、ずっと私のそばにいて。そう口にする代わりに私はいつもお決まりのセリフを吐く。
「何でもないわ」
拒否される事、この関係が崩れる事を私は恐れてしまう。重たい女は嫌われる。嫌われるなら私は彼のその他大勢の女のままでいい。
ある日バーボンが喜びそうなネタが入ったので彼にすぐ連絡をした。指定されたのはとあるホテルの一室で、情報を売り報酬をもらった後いきなりベッドに押し倒された。
上に乗っかって来た彼を見ると珍しく余裕の無い顔をしていた。
「溜まってんの?」
「そうかもしれません」
貴方ならその辺歩けばいくらでも女なんて食い放題でしょうに。その中で私を選んでくれた事が嬉しくて、でもこんな関係で本命とは言えないのは分かっていたから、心に過った感情を押し殺して彼の唇にキスをした。
「ねぇ、バーボン。私最近貴方としかヤってないのよ」
「僕もですよ、ロゼ」
それが嘘か本当か分からない。
使える女に対するリップサービスかもしれない。
彼の言動に一喜一憂しながら、
今日もまた、私は朝が来ない事を願ってる。
21.0227
≪|≫