短編 | ナノ







人生何があるか分からないものだが、俺にも最愛の人が出来た。

なまえと出会い、結婚し、2人の愛の形である子供も授かる事ができたが、それに伴いなまえは悪阻や体調不良があり日々辛そうで微々たるサポートしか出来ない自分に歯痒さを感じる。

それなのに俺にありがとう、といつも言ってくれる苦しそうな彼女を見てると無理だと分かっていても可能なら代わってやりたいとその都度思ってしまう。

父親になるなんて過去の自分からは想像つかなかった。お腹の子供はまだ性別は分からないが今のところ順調に育っている。


「ねぇ…零」

ある日の穏やかな午後、少しだけ目立ち始めたお腹を摩っている顔はもう母親の顔だ。今日は比較的落ち着いていて顔色もいい。俺も育児本や子持ちの先輩に色々聞いて勉強しているが母親であるなまえには一生敵わない気がする。これ以上ない幸せを俺は噛み締めつつ、そんな彼女の言葉に耳を傾けた。


「この子が産まれたらDNA検査しようね!」

「………。すまないなまえ、もう一度言ってくれないか?」

「だからDNA検査!零とこの子の親子関係を調べるヤツだよ。今はね、ネットで検査キットを購入して検体を送れば簡単に出来るんだよ!Webサービスで早く結果が見れるし、欲しい人には鑑定書もくれるんだって!」

なまえの発言を聞き間違えたかと思った。とても慈しむかのようにお腹を摩りながら出てくる言葉とは思えない。


「なまえ、普通それは男が産まれた子を実子か調べる時に言う言葉じゃないのか?」

「えー、だってやってみたいじゃん。零は警察官だから慣れているだろうけど、私はやってみたいの」

管轄が違うから俺はそんな事しない。

なまえは幼い頃からサスペンスやミステリーが好きだったらしく今でもよく小説やドラマを見るからDNA検査に興味を持ったのだろう。ミステリードラマは刑事物が主流だが最近では科捜研や鑑識を題材に扱った物も数多くある。

それをしたがると言うのはお腹の子供の父親が俺だという絶対的な自信を持っているからできる発言だ。じゃないとこんな面と向かって俺に、さらには笑顔で言う筈がない。心当たりがあるなら普通俺が寝ている時にこっそりやる物だ。今日は安定しているせいか彼女のテンションも高く圧倒されそうになる。


これがよく聞くマタニティハイというヤツなのだろうか。元々少しズレている人だと思ってはいたが、なまえの場合ちょっと違っている気がする。


「さっそく調べてみよう!」

楽しそうにスマホで調べ始めた彼女はとてもDNA検査キットを調べているとは思えない。ベビー用品を見ているかの様にノリノリだ。


だがそんななまえを俺は好きになった。

産まれてきてくれたらどんな子でもいい。遺伝的には俺のような肌を受け継いで産まれてくる確率が高いだろう。きっと偏見で辛い事もある筈だ。だが俺のようにいつか最愛の人を見つけて幸せになって欲しい。それまでは俺となまえでたくさんの愛情を与えてあげよう。


「零ちょっと見て!これとかどうかな?」

興奮ぎみの彼女に呼ばれ、やや苦笑しながらも差し出されたスマホを覗き込んだ。


数ヶ月後、俺達の子供が産まれさっそくなまえは俺と息子の口に綿棒を突っ込みそれを郵送した。後日送られてきた結果は当然俺の子であると証明され、その鑑定書は子供の命名書の隣に額縁に入れられて飾られている。




20.1112
和やかな妊婦さんネタを書こうとしたらこうなりました。
あれれ〜?おかしいぞ〜?ギャグっぽくなっちゃった。
せっかく降谷さんが穏やかな雰囲気にしてくれようとしていたのに…


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