「…な…なんだこれは……!!」 普通赤ん坊の記憶なんて食事や母親の腕の中の事や昼寝など、下らない記憶ばかりかと思ったがこの赤ん坊はおかしかった。 いや正しかったが正解か… 『今日はお隣の子、岸辺露伴ちゃんが遊びに来たわ。とても可愛い。私よりもずっと年下』 『今日は露伴ちゃんとお絵かき。とても上手』 何故この赤ん坊が僕の名前を知って、杉本鈴美の名前を知っているのか理解不能だった。もちろんこの赤ん坊とは初対面だ。 『可愛い露伴ちゃん…今日は私に花束をくれたわ。嬉しい。結婚の約束までしたわ』 何故だ!!杉本鈴美の記憶を知っているんだ!?スタンド使いとは何処にも書いていない! 『今日は露伴ちゃんの両親が留守だから一緒にお留守番。何故か少し胸騒ぎがする…』 駄目だ!これ以上読むと……!思い出す!あの忘れたい日を…! 『露伴ちゃん…逃げて…』 「うわあああーーっ!」 僕は発狂した。杉本鈴美の記憶を読んだからじゃない。何も知るはずのない赤ん坊が杉本鈴美の記憶を持っていたからだ。忘れたはずの記憶を…! 「…はん…ちゃ…」 何処からか鈴美の声がしたような気がした。気のせいだと思ってた。 「…妙な赤ん坊だ…恐ろしい。何をするか分からんな…とりあえず僕の家にとどめよう…」 僕は久々に冷や汗をかいた。 まさかこんな赤ん坊の前で冷や汗をかくなんて… 「一体お前は何者なんだ…」 赤ん坊はただアブっと泣いて僕の顔を覗き込むだけだった……。 とりあえず名前を付けなきゃあな。と赤ん坊を抱き上げてみた。 「そうだな…」 『露伴ちゃん』 ふと彼女の声が頭に響き、名前がすぐに決まった。 「君は"レイミ"…だ」 何故か普段滅多に笑わない僕がこの日だけは笑えた。同時にレイミもキャッキャッとはしゃぎ、笑ってた。 「よろしく。レイミ…」 そしてここから僕の多忙な地獄のような子育てが始まる…とは知らなかった。 「うわ…っ!!何してるんだ!レイミ!!」 出来上がったばかりの原稿の上をよちよちとまだ危なげな歩き方で歩くレイミ。 その所為で原稿はぐしゃぐしゃ… だけど彼女は無邪気に笑うだけで言葉は通じない… ひょいとレイミを持ち上げ、床の上に戻し、駄目だ!と注意した。まるで聞き分けの聞かない猫を飼ったようだ… ちょっと目を離すと危険な行為ばかり… 「危ない!」 何回受け止めたことか……。 原稿に手を入れられると言えばレイミが寝る時間かオモチャで遊んでいる時間くらいだ。忙しい。 だけど不思議と彼女の笑顔を見ると怒りは沸いてこない… 不思議なものだ。子供とか兄弟が出来るというのはこういうものなのか… 「レイミ…?」 急に静かになったと思えば僕の布団の上ですやすやと眠っていた。落ち着いて…無垢な気持ちで。 まるで何も描いていない原稿用紙のように… 僕はまったく…、と思いながらそっとお腹にタオルケットを掛けてやった。 。 |