hate him, no way.


「っ…はぁ……っ」

こんなにも苦しくて、残酷で、悲惨で、何も嬉しくない話があってたまるか。

私は今、この状況を理解したくない。

彼氏だと、やっと信頼できる人が出来たんだとあんなに嬉しそうにはしゃいでいたのが嘘みたい。

今わたしは、彼氏だと信じていた物に押し倒され、服を無理矢理に破かれ、部屋の片隅の暗闇に追いやられ下着と微かな衣類しか身に付けていない状況だ。
しかも手は何だか分からない紐状の物で縛られ、口を手で塞がれてやっとの想いで息を吸っている。

「さやッ………さや……っぁ…!!」

気味が悪い。
人はこうも変わるものなのか?

目の前の男は自分のズボンのベルトを息を荒げ、ハアハア、と、私に吹き掛けてカチャカチャと金属音を鳴らし、ズボンを下げて器用にトランクスの穴から自身のモノをポロリと出し見せつけてくる。

「これを、入れたいんだ…良いよな?」

聞かなくていい。聞いてほしくない。
また私の中で気味悪さが増して目の前の男の目を見るのが嫌になる。目を逸らそうと顔を横に振り、必死に嫌だと訴えた。
「ちゃんと着けるから…な?」

ピンク色のゴム状のもの。
授業で見たことある。あれはコンドームではないか?

ピリッ…と中身を乱暴に出し、中身を包んでいた袋をポイ、と粗雑に捨ててそのピンク色のゴムを器用に自身の性器に着ける仕草を見ているだけで体が恐怖する。鳥肌が立つなら未だしも、体が小さく震えた。

「嫌ッ…いやぁあ!!!」

声を上げ、男の腹や足を縛られていない両足で必死に蹴り飛ばして男を退けようとした。
だが、こういうとき女性の力は宛にならない。まるで豹に七面鳥が刃向かうように、無力だ。

嫌だ、そう言う前に行為は始まった。
無造作で、丁寧な仕草は一つもなく、ただ己の欲だけで楽しむ…不快だ。気持ち悪い。吐き気が襲う。だけど女の悦びが顔を出す。嬉しがっていないのに体が感じてしまうのだ…私は変態なのか。


だけど声は出さなかった。
声を出せば男の快楽の思うままになるだろうと意識がある頭が判断したから。必死に我慢した。


「ッ……!」

暫くすると男が「うっ」と呻き声に似た品のない声を出して私の中で果てた。男はどこか不満そうな顔をして私を見てきたが、私は縛られていた紐が緩くなりほどかれた手で顔を覆い隠し、男の顔を見ないことにした。見たくもない。早く消えて。私の前から。そんな感情ばかりが頭を過り、歯をギリリと食い縛り男が立ち去るのを待っていた。
案の定、男は顔を歪め「チッ」と舌打ちをした後、わたしの部屋からさっきと同じように不満そうな顔をして出ていった。途中、机を蹴り飛ばしたような音がしたがもう気に止めない。

「あ………っ」

下半身に痛みを伴い、このままではいけないと体をゆっくり動かせば、周りに白い液体が飛び散っていた。

何か、想像なんてしたくない。

ぶるぶる、小刻みに震えながら洗面所へと足を伸ばす。

「……ッ…う…え…」

声がでない。
出てくるのは吐き気。それと激しい目眩だ。
これ以上進めない。手を伸ばせば洗面所に行けるのに、足が動かない。

世界がぐるぐると回る。意識が、止まりそうだ。
寧ろこんな惨めであるくらいならいっそ死にたい。
ほら、過呼吸が始まった。苦しい。息が出来ない。
  
パソコンをシャットダウンするように、
これ以上生きたくないと、
自分の意識を閉じようとしているんだ。きっと。

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